Business & Economic Review 2005年05月号
【REPORT】
衣料品価格の変遷とその背景-価格の「二極化」の進展
2005年04月25日 調査部 マクロ経済研究センター 研究員 中村和司
要約
- デフレの象徴的存在であった衣料品価格の変遷を分析することを通じて、最近のデフレ緩和の背景とその実態の一側面を考察する。
- 衣料品の「価格破壊」は、企業が中国をはじめとしたアジアでの生産拡大などを通じて大幅なコスト削減を図ったことで実現した。このような企業による価格の引き下げ努力が、家計の低価格志向を刺激し、1999年から2000年頃にかけて、景気回復局面においても低価格志向が強まるという特異な現象をもたらした。
- 2002年以降、物価水準が大きく低下し、家計の低価格志向が薄れるなか、「価格破壊」のトレンドは、企業が脱低価格戦略を模索しはじめたことによって歯止めがかかった。もっとも、企業のなかには引き続き低価格戦略を維持する動きもみられ、高付加価値品と低価格品が並存する価格の「二極化」が進展している。
- 以上の分析結果(a.価格の「二極化」が持続、b.企業の戦略が家計の価格志向を大きく左右し、「二極化」の進展は企業による主体的なプライシング戦略転換の結果)は、少なくとも衣料品の物価動向から判断する限り、デフレは緩和に向かっているものの、かつてのようにインフレ期待が高まっているわけではないことを示唆している。このことが他の商品についてもいえるとすれば、引き続き家計の価格に対する厳しい目が残るなか、企業は自ずと値上げが受け入れられるという期待を抱くことなく、商品ごとに高付加価値路線か低価格路線かの戦略を明確にすることを求められているといえよう。