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Business & Economic Review 2006年05月号

【STUDIES】
投資家サイドから見たアーニングス・マネジメント-「利益の質」による企業評価の試み

2006年04月25日 新美一正


要約

  1. 本稿では、経営者による裁量的な会計操作活動であるアーニングス・マネジメントに関する前2稿においてはやや後景に置かれていた、情報格差に対する投資家サイドの主体的努力、すなわち、経営者と外部投資家との間の情報格差を埋めるための情報生産活動に焦点を当てる。具体的には、欧米において「利質分析」の名のもとに行われている、主に会計士および証券アナリストによる分析作業を考察対象とした。

  2. まず、欧米において「利質分析」の名のもとで現実に行われている議論の問題意識や論点を、実態に即した形で検討するために国際会計士連盟とアメリカ公認会計士協会が公刊した“Quality of Earnings : A Case Study Collection”から、三つのケースを取り上げ、その内容を概観した。会計士によって編まれた本ケース・スタディ集の意図するところは、アーニングス・マネジメントが加えられた会計報告は、利益の質を低下させる、という考え方に沿い、適切な会計監査を加えることによって、会計報告の質を向上させ、最終的な会計情報利用者の便益を図る、という点に集約される。

  3. 続いて、アメリカにおける財務分析の基本的なテキストであるBernsteinand Wild[1998][1]、Bernsteinand Wild[2000][2]に依拠しながら、公開された会計情報に基づき、利益の質を定量的に把握するためのスキームを構築した。さらに、この分野における先行研究である一ノ宮[2004b][9]に依拠して、現実に利質分析を行うための具体的な評価項目の選定作業を行い、食品業界18社を対象とする利質分析のケース・スタディに適用した。ケース・スタディの内容は以下の3点に集約される。

    A.数値化された利質スコアの業界内格差はかなり大きい。項目別指標の原データを見ても、対象企業間の利質格差は、一般的な印象以上に大きいように思われる。
    B.利質スコアによる業界内ランキングは、個社別の経営実態を表す利払能力やROEとは、有意な正の順位相関を持っているが、証券市場における株価形成を反映した資本コストやPERとは有意な順位相関を持っていない。このことは、本稿が提案する利質の定量評価スキームが、現実の企業評価において、ある程度の妥当性を持つものの、その情報は市場における株価形成には必ずしも織り込まれていないことを示唆する。
    C.分析過程の副産物として、証券アナリストの考える優良ディスクロージャー企業のランキングが、利質スコアを含む、他の企業評価指標ランキングと有意な順位相関関係を持っていないことがわかった。情報生産の主要な担い手である証券アナリストの行動原理に関しては、理論・実証の両面からさらなる検討が必要である。

  4. 本稿における利質評価は、対象企業や分析対象期間などに多くの制約があり、評価結果から一般的な政策インプリケーションを導出するためには、さらなる研究の蓄積が必要である。しかし、この利質評価スキームが、利質の顕示化にある程度は成功していることと、他の企業評価指標とは異なる企業評価情報を投資家に提供できていること、の2点については、おおむね確認できたように思われる。
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