Business & Economic Review 2006年05月号
【REPORT】
地域別格差の検討とまちづくりの課題
2006年04月25日 吉本澄司
要約
- 景気拡大が各地域にも広がる反面、地方が衰退している、格差が広がっているという見方も根強く存在する。しかし、地域経済全体の動向を表す実質経済成長率の都道府県間格差は拡大していない。一人当たり県民所得の都道府県間格差は最近2年間で大きくなっているが、1980年代後半に比べれば小さい。また、拡大の主因は家計部門ではなく企業部門の所得である。
- 世帯収入の地域別格差は、日本全体の動向と同様、高齢化の影響によって同一地域内の世帯間格差が広がっている。しかし、地域間の世帯収入格差は広がっていない。消費支出の地域間格差は、地域ごとの世帯規模の違いや物価水準の差を考慮すると、単に世帯当たりで比較した格差ほど大きくない。またそれぞれについて推移をみると、格差縮小を示すものが多い。
- 格差の問題は、人々がどのように感じるかという意識の問題でもある。地域別の中流意識を左右する要因は複雑化しており、収入の影響は低下している。所得・収入面に対する満足度についても、実際の収入レベルと対比して不満度が強い地域がある。中流意識の地域別の分散度合いは2005年に急上昇しており、格差や階層に関して人々の意識が敏感になっている影響も考えられる。
- 地方が衰退している、格差が広がっているという見方が根強い背景には、全国より先行して人口減少・高齢化に直面している地域があることや、旧来の繁華街の賑わいが失われて地域の繁栄・衰退に関する印象に影響を与えていることなど、複雑な要因が絡み合っていると考えられる。
- 地域別に人口動態の差が生じている主因は、人口の社会増要因である地域間移動の影響である。企業誘致に成功した結果として人口流入が促進されている都市もあれば、高齢者が住みやすいまちづくりを通じて人口流入を促している都市もあり、対照的である。
- 地域によってどのような形態の商業地区が発達するかは、地域ごとの生活様式や交通インフラなどの影響を強く受けている。そうした特性にうまく対応して顧客を集めている商業地区の立地を規制しても、顧客誘引の魅力づくりに立ち遅れた商業地区に顧客が戻る保証はない。
- 「まちづくり3法」の改正による郊外開発の規制というブレーキと中心市街地の活性化促進策というアクセルの併用によって、人口減少社会、超高齢社会の到来に即したまちづくりを実現しようという動きが進んでいるが、都市中心部の賑わい復活は、中心市街地の活性化促進策というアクセルの有効性にかかっている。
- 既存の商店街のなかには、顧客ニーズに応えるという基本的な対策が不十分なままの所もあり、再生の可能性が懸念される。制度改正によって支援措置が大幅に拡充される以上、評価や情報の公開が的確に行われることが必要である。また、都市中心部の再生の成否には、空き地や空き店舗の地権者の動向が大きな鍵を握っている。