Business & Economic Review 2007年09月号
【FORECAST】
2007~2008年度経済・改定見通し-経済「デュアル化(二重構造化)」の危機をどう乗り越えるか
2007年08月25日 調査部 マクロ経済研究センター
要約
- 日本経済は2007年に入り、景気の回復テンポが鈍化傾向。在庫が積み上がり気味となったITデバイス部門の一部で減産が行われたことのほか、アメリカ景気が下振れするなか、絶好調であった自動車の海外販売が鈍化した。また、設備投資の先行指標とされる機械受注が弱含み傾向にあり、個人消費も弾みがついていく兆しがみえない。
さらに、昨年には回復の広がりの兆しがみえた中小企業セクターで、再び停滞感が漂いはじめているのは、中長期の視点でみたときに気になる現象。企業部門の二極化傾向を放置することは、低所得層の拡大をもたらすこととなり、結局は社会の活力低下が経済活動の足かせになっていくことが懸念される。本稿では、2007年度下期から2008年度にかけての景気のコースを展望するとともに、企業部門の二極化に焦点を当て、中長期の視点からわが国の経済・社会が活力を維持していくための条件を探る。 - 世界経済を鳥瞰すれば、現状“資源高/CPI・金利安定下の世界的高成長”という構図。それは、a.情報通信革命の進展→b.中国等「新興大国」の台頭→c.資源国の高成長―というプロセスを経て、「アメリカ-中国-産油国」間での相互依存関係を根幹とする世界経済の成長循環メカニズムが形成されたことで実現。この成長循環メカニズムは、a)中国⇔アメリカの相互依存関係、b)中国の原油・資源需要とオイルマネーのアメリカへの還流、という連関が両輪に。最近の動きをみれば、a.先進諸国でインフレギャップが拡大する方向にあること、b.中国をはじめとした新興国の賃金が相当程度上昇してきたこと、などにより、物価・金利安定の構図は徐々に崩れる兆し。とはいえ、グローバル規模での競争が激しい耐久財分野では依然として世界的なデフレ圧力が根強いこと、アウトソーシング・オフショアリングの広がりからサービス分野にもデフレ圧力がかかっていること、などを踏まえれば、インフレ・金利上昇局面への移行にはなお時間を要する見通し。
- 国内景気の先行きについては、本年夏場にかけては、a.アメリカ景気減速と先行き不透明感残存の影響(輸出下押し作用および設備投資先送り)、b.一部産業の高水準の在庫率、c.税源移譲に伴う家計向け課税時期変更の影響を背景に、足取りの重さが残る見込み。もっとも、a.新興国・資源国向け輸出の好調持続、b.企業部門の潤沢なマネーストック、c.金属セクターやIT最終財など在庫率が過去最低水準にあるセクターも少なくないことを踏まえれば、景気の底堅さは維持。アメリカ向け輸出の復調が期待される秋口ごろからは、成長ペースが再加速へ。
以上のもとで、2007年度の実質成長率は+2.4%と5年連続の2%成長を見込む。
2008年度については、2007年度下期の景気回復の構図がしばらく続くものの、北京オリンピック開催を境に年度下期は、a.中国の投資需要を中心とした海外需要のスローダウン、b.設備投資効率の上昇ペース鈍化を受けた国内設備投資の弱含みが生じる懸念。この場合、景気の実勢も次第に弱まっていく展開が予想される。 - 2002年に始まる今次回復局面では、中小企業セクターでの立ち遅れがみられ、とりわけここ1~2年でその傾向が顕著に。グローバル化や高齢化といった経営環境の変化に対し、対応が進んだ企業は伸び、対応が遅れている企業は低迷するということが、企業部門「デュアル化(二重構造化)」の基本的な構図。以上の構図が今後とも続くことになれば、グローバル化のダイナミズムを取り込むことで成長を持続できる「成長産業セクター」と、グローバル化の流れから取り残され業績低迷を余儀なくされる「停滞産業セクター」へと「デュアル化(二重構造化)」は一段と進行。その場合、「成長産業セクター」での賃金増が限られ富の海外流出が続く一方、「停滞産業セクター」に属する低所得層が増えていく結果、家計活動が低迷して社会全体の活力が失われ、国内低迷・海外シフトの流れに一層拍車がかかるという、「産業部門デュアル化と所得分配デュアル化の悪循環」が生じる恐れ。
こうした悪循環を阻止するためには、企業規模・産業分野にかかわらず、グローバル化・高齢化という環境変化に対しすべての企業が主体的に対応していくことがまず必要。そのためには、希少となる人材の能力の効率的な活用・育成を促すとともに、変化への適応が困難な人々をサポートし、再び労働市場に参入できるような支援を行う「包括的な雇用システム改革(労働市場と社会保障の一体改革)」の実施がカギを握る。
景気回復が見込まれる2007~2008年度にこそ改革を断行すべきであり、“『生産性向上』誘導戦略”と“『ワークフェア』政策”の一体的実施を主軸に据えた改革プログラムを推進すべき。