Business & Economic Review 2006年03月号
【STUDIES】
リース会計基準見直しの視点
2006年02月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 研究員 一方井絢子
要約
- わが国では、リース会計基準の見直し作業が進められている。現行基準では、取引実態が売買とも賃貸借とも一概に決することが難しい一定のリース(所有権移転外ファイナンス・リース)取引について、売買処理と賃貸借処理の選択適用を認めているが、わが国の会計基準を策定する企業会計基準委員会(ASBJ)は、この選択適用を、国際会計基準との収斂の妨げになるとして、売買取引に準じた処理をベースに一本化する方向を示し、今年度末を目処に結論を出すことを目標に検討を急いでいる。
- 今般のリース会計基準の見直し論議は、現行の会計基準において一定のリース取引につき売買処理と賃貸借処理の選択適用が認められるもと、賃貸借処理が一般的である現状を問題視する立場から提起されたものである。これに対しては、a.財務諸表の比較可能性を確保するため、売買処理に一本化すべきなどの賛成論と、b.税務との調整の面で影響が大きいため、売買処理には一本化すべきではなく、賃貸借処理はわが国固有のリースの性質を適正に反映しているなどの反対論に2分され、議論の集約がみられていない。
- リース業界の団体であるリース事業協会からは、この問題に対して、税務との調整が不要となる「連単分離」(連結・単体決算でそれぞれ異なる処理を認める)などの案を含めて三つの考え方が示されているが、これに対し、企業会計基準委員会は、あくまでも売買取引に準じた処理への一本化をベースに検討を進めるとしている。企業会計基準委員会案がそのまま認められるとすれば、最悪の場合、わが国において、企業は設備調達の際、借入れ・購入に比し様々なメリットを有するリースの利用機会を失う恐れがある。
- リース会計基準見直しに際して、以下の問題点を指摘したい。
(1)わが国産業・企業への影響を考慮すべき:今般の会計基準見直しにおいて、財務諸表の比較が容易になるメリットは、あるとしても極めて限定的である半面、企業の設備投資手段として定着しているリースが利用不可能になる結果、回復基調にある設備投資に打撃を与えかねない。会計表記の形式を優先するあまり、会計基準の変更がわが国経済に与える影響を十分考慮せずに行う議論には問題がある。
(2)税務との一体解決を図るべき:企業会計基準委員会は、税務には関与しない姿勢をみせるが、税務との調整が図られないままでは、リース・ビジネスの重要な存在基盤が損なわれ、わが国企業が、リースを利用した設備投資の機会を失うことに繋がろう。会計基準見直しにあたっては、現行の税務処理を前提とした会計と税務との一体解決の道を示すべきである。
(3)わが国固有の解決を図るべき:海外主要国では、中長期的理念としての「国際会計基準への収斂」の実現に向けて、「連単分離」などの措置によりリース取引に賃貸借処理を残し、リース存続の道を図るよう各国固有の対応をしている。わが国においてのみ、リースの賃貸借処理が廃止されるようなことになれば、わが国企業がリースという重要な設備調達手段を失い、わが国企業の国際競争力に大きな影響を与えよう。「国際会計基準への収斂」を視野に入れつつも、リース会計基準見直しにあたっては、各国の対応状況やわが国の実情を勘案し、国益を踏まえた議論をすべきである。
(4)見直しの時期を慎重に見極めるべき:わが国のリース会計基準は、EUにおける同等性評価にみられるように、国際会計基準との整合性の点で海外からみて問題とされていないうえ、国際会計基準においてもリース会計の変更が検討されている最中である。このように、わが国のリース会計基準の見直しを急ぐ必要がないばかりか、現時点での見直しは、将来の会計基準変更の2度手間をもたらす弊害をもたらしかねない。国際的な動向を踏まえ、見直し時期を慎重に見極めるべきである。
(5)会計基準策定のあり方:企業会計基準委員会は、「公正性・透明性・独立性」を標榜するが、委員会における検討状況の詳細等が一般サイトで公開されないうえ、会計基準をWeb上で閲覧できるのは会員に限られ、情報開示が十分でない点など、改善すべき点もある。一般に公正妥当と認められる会計基準の開発を担う主体として、透明性の高い審議が望まれる。