Business & Economic Review 2006年02月号
【REPORT】
最近の地価形成の特徴と不動産関連市況の適正度
2006年01月25日 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 岡田哲郎
要約
- わが国の地価は、総じて下げ止まり傾向にある。その背景としては、a.長期の調整期間を経て国際 比較の観点でも「割高感」が修正されたこと、b.国内景気が緩やかながら息の長い回復傾向をたどっていること、c.上記の結果として不動産投資(不動産業)への収益期待が際立って高まっていること、 が挙げられる。
- 最近の地価動向の特徴は、全般には下げ止まり感が強まるなかにあっても、地域毎にはバラツキが 大きいこと。都道府県別の2005年公示地価(商業地)の前年比上位である東京、愛知はマイナス幅縮小が顕著である一方、下位の山梨、秋田などは2桁の下落ペースが続いており、地域ごとに好不調の コントラストが鮮明。このような差が生じている背景として、都市機狽竡Y業の集積度合いの違い、それらに伴う人口吸引力の差、などが指摘可能。
- 上記のような地価のバラツキは、同一地域内においても観察される。都心5区の商業地価について、 地価水準を横軸、前年比騰落率を縦軸に散布図を描くと、90年代までは傾向線が水平、すなわち「地価は水準に関係なく軒並み高(安)」となる傾向が看取された。これに対し、2000年以降は、傾向線 が右肩上がりの形状へと変化、すなわち「地価水準の高い地点ほど下げ渋る(上がりやすい)傾向」が現れている。これは、かつては近隣取引事例などに基づき、一律の上昇・下落となりやすかった地 価形成が、利用価値重視の価格形成メカニズムへと変わってきたため、と推測される。こうした動きは今後も続くと卵zされ、投資収益やブランド価値などの観点から土地への投資は厳しく選別され、 物件特性に応じた地価の「二極化」あるいは「個別化」が進んでいくとみられる。
- 地価形成の変化が生じた2000年前後は、「SPC(特別目的会社)」やREIT(不動産投資信託)の運 営主体である「投資目的法人」が、新たに不動産取引の主要プレーヤーとして登場してきた時期であり、両主体の取引ウエートは足元にかけて急速に上昇している。これらが、「低金利」、「カネ余り」 の金融環境下で膨らんだ投資マネーと不動産を結び付ける役割を果たし、利用価値を重視した「収益還元」的な発想に基づく価格形成メカニズムを浸透させていくアクセラレーターになっている。
- 最近では、REITや私募ファンド等による都心部での物件争奪戦の激化や、REIT投資口価格の上昇 などを受け、一部で「バブル再燃」懸念も生じている。そこで、「NOI利回りとインプライド・キャップレートの格差」、「イールド・スプレッド」等、幾つかのREIT投資尺度から、不動産投資の現状 をみると、「過熱感はあるものの、バブルとまでは言い切れない」状況と判断される。
- もっとも、部分的・局所的な行き過ぎが生じる可柏ォには注意が必要。REITに関しては、透明性 の高い情報開示と、それに基づく収益還元アプローチの利用可柏ォが、過大評価の歯止めになる面はあるものの、過信は禁物。また、不動産投資ブームの転機となりうるイベントとして金利上昇のリス クにも要注意。上場投資法人の財務諸浮薰ノ長期金利の上昇による当期利益押し下げ効果を試算すると、金利25bps上昇の場合▲3.1%、100bps上昇の場合で▲12.3%、となり、他の条件が一定のもと で配当利回り不変とすれば、利益減少が投資口価格の下落に直結する。このほか、金利上昇による相対的な利回り妙味後退による価格下落圧力も想定される。わが国REITは「超金融緩和」というこの 上ない好環境のもとで生まれ育ってきただけに、有力なオルタナティブ資産としてさらなる成長・定着を図っていくためには、いずれ訪れる本格的な金利上昇局面をいかに乗り切っていくかが大きな課題となろう。