Business & Economic Review 2007年07月号
【STUDIES】
消費関連産業の経営環境としての個人消費の状況と市場シェア競争
2007年06月25日 吉本澄司
要約
- 個人消費は大きな流れとしては回復の方向にあるが、消費関連産業の景況感は他の業種に比べて総じて弱い。個人消費の内訳をみると、電気通信業の主力分野である通信や、飲食店・宿泊業の主力分野である外食・宿泊に対する需要は増加しているが、最大の消費関連産業である小売業では取扱品目に対する消費支出額の増勢が弱く、経営環境は全体として厳しい。
- 小売業では、市場規模が縮小するなかで顧客獲得競争が業態間で激しくなっている。専門店・中心店や百貨店が販売シェア、販売額を落とす一方で、専門スーパーや、コンビニエンスストア、ドラッグストアが販売シェア、販売額を伸ばしてきた。こうした業態の成長は、小売業全体の市場規模拡大に支えられたというより、業態別の市場シェア競争で優位に立った結果という面が強い。
- 小売業市場規模を地域別にみると、最も大きいのは関東で43.8兆円、続いて関西が21.5兆円、中部が15.8兆円となっている。各地域の小売業市場規模の差を決定付けているのは主として人口の違いであり、消費者が購買行動のために移動する範囲を包含するような広さを取って比較すれば、各地域の小売業市場規模はその地域の常住人口におおむね比例する。
- 地域をより細分化して比較すると、消費者の居住地と消費支出を行う地区が必ずしも同じではないため、小売業市場規模は常住人口に必ずしも比例しない。関東では東京都区部、中部では名古屋市、関西では大阪市、京都市、神戸市に周囲の居住者の購買力が流れるため、こうした大都市では人口一人当たり小売業販売額が地域平均を上回っている。
- 「地方」と異なり、大都市では中心部が賑わいを保っている。人口一人当たり小売業販売額が大きな東京都区部や大阪市のなかでも、さらにその中心を占める都心型大規模繁華街は最も集客力の強い特別な商業エリアである。これらの繁華街の間でも、集客力を競う動きが繰り返されている。
- 今後予想される大阪市内の百貨店売場面積増加率は、過去に東京(新宿)、名古屋、京都、札幌、福岡(天神)で起きた同様の事例のなかで最大級であり、その影響は大阪市内、大阪府内にとどまらず、京都市や神戸市など関西全体の商業地区に及ぶ可能性が強い。業態別にみても、百貨店同士の競争にとどまらず、他の業態も顧客獲得競争の枠の外にいることはできなくなるとみられる。
- 2006年から2011年までの5年間に、過去5年間の関東や中部のように人口を約2%増やすことができれば、関西の小売業市場規模は約4,000億~4,500億円程度拡大する。これは都心型大規模繁華街一つの小売業年間販売額に相当する需要増加であり、地区間の再開発競争や業態間の出店・売場面積拡張競争の激化を一部緩和できると期待される。他方、従来のように人口がほぼ横ばいであれば、関西全体としての小売業市場規模の拡大はあまり期待できず、地区間や業態間の顧客獲得競争はゼロサムゲームの様相を呈する恐れがある。企業誘致や産業振興を通じた地域の経済基盤強化は一層その重要性を増すものと考えられる。