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Business & Economic Review 2007年07月号

【REPORT】
税収動向と税収弾性値に関する分析

2007年06月25日 京都大学 経済研究所 准教授 北浦修敏、調査部 マクロ経済研究センター 研究員 長嶋拓人


要約

  1. 近年、自然増収の好調さがしばしば指摘されているが、本格的高齢化社会の到来を前に、社会保障給付の動向とともに、歳入の中長期的な動向を冷静に分析・検討することは極めて重要な課題といえる。本稿は、税収弾性値の推計を行い、短期的な税収の変動、中長期的な税収動向を分析・検討するとともに、今後の税収に影響を与える要因を幅広く検討することを目的とするものである。本稿の主な結論は以下の4点である。第1に、長期の税収弾性値(分配関係が安定的な潜在成長経路上の税収の伸び率と経済成長率の関係)と年度内税収弾性値(同一年度内におけるGDPギャップの増減に伴う税収の変動)を分けて分析する必要性を指摘し、この考え方に基づき、国税に関して、長期の税収弾性値は1.1、年度内税収弾性値は±2.1との分析結果を得た。具体的には、GDPギャップの増減に伴う税収の変動は、分配構造に影響を与えない潜在成長経路における税収の変動よりも大きくなるが、これは、主に課税ベースが平均税率の低い所得税と平均税率の高い法人税の間を景気循環に伴い変動することによって生じると整理した。この考え方に基づき、まず分配構造が安定的な期間における長期の税収弾性値を推計し、次に、シミュレーションによりGDPギャップの変動から分配構造への影響を伴って生じる税収変動を測定して、GDPギャップの変動幅に対する税収弾性値を年度内税収弾性値として推計した。実際に観察される税収弾性値(短期の税収弾性値)は、現実の経済成長率が潜在成長率とGDPギャップの増減の合成であることから、長期の税収弾性値と年度内税収弾性値を加重平均したものとして得られることになり、極めて不安定なものであることが理解できる。

  2. 第2に、当初予算における税収見積りと税収決算額の乖離を分析して、当該乖離は過去30年平均で3兆円近い大きなものであるが、その要因としては、経済見通しの誤りや前年度税収見積りに対する決算値との乖離が重要であり、それぞれ全体の乖離の2割強を説明することを検証した。また、残余部分を説明するその他の要因として、GDPギャップに伴う年度内税収弾性値による税収の増減の効果をシミュレーション分析した結果、全体の乖離の1割強を説明するとの結果を得た。ただし、このようなマクロ経済のフロー・ベースの税収分析だけでは、1990年代以降の日本の税収変動を5割程度しか説明できないことも明らかになった。

  3. 第3に、従来のフロー・ベースの税収の分析に加えて、とくに法人税に関して、ストック価格の変動が税収に与える影響を考慮する必要性を指摘した。バランス・シートの悪化の影響を中心とした90年代の赤字法人の欠損の拡大、繰越欠損金・翌期繰越額の積上がりは法人税の課税ベースを侵食しており、シミュレーション分析の結果、こうした繰越欠損金の増加は、法人税を3~4兆円程度低下させていることを確認した。

  4. 最後に、税収弾性値を用いて作成した簡易な税収モデルで、需要と供給が均衡していた87年度の税収水準を発射台として長期の税収弾性値を用いて現在の長期的税収水準を計算し、現在の税収水準と比較した結果、現在の税収水準は、長期的水準を若干下回るものの、おおむね長期的水準に戻っているとの結果を得た。
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