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Business & Economic Review 2007年06月号

【STUDIES】
高齢者世帯の金融ニーズと今後の金融ビジネス

2007年05月25日 星貴子


要約

  1. わが国では、世界でも例をみないスピードで高齢化が進んでいる。それに伴い、高齢者のみで構成される世帯が増加し、独立して家計を営む世帯も増えてきた一方で、バブル崩壊以降、景気低迷が長期に亘ったため、高齢者の所得環境は良好とはいえない状況が持続している。加えて、公的年金制度や自らの健康状態に対する懸念を背景に、将来の生活に不安を抱く高齢者が増えてきた。こうした生活環境の変化により、高齢者の金融に対するニーズも変わってきている。多くの高齢者世帯では、日常的に生活費の不足が発生しているうえ、入院・介護といった不測の事態に対する多額の費用が家計の負担になると懸念されている。このように、高齢者世帯では、日常生活費の資金調達の必要性が一段と高まっているほか、万一の事態に対する経済的な備えが従来以上に必要になっている。

  2. 日常生活費の調達には、a.安定的かつ継続的に資金が提供されること、b.必要に応じて速やかに資金が提供されることが必要条件となる。こうした観点からすれば、定期預金、変額年金保険、投資信託といった運用商品は、日常生活費の不足分を補う資金供給手段として適切ではあるものの、1,700万円以上の自己金融資産が必要となり、半数以上の高齢者世帯では利用が難しい。一方、一般的な信用供与は、臨時の資金需要に対して有用な手段であるものの、年齢や収入に関する制約が多く、広く高齢者が利用できる状況にない。こうしたなか、近年、住宅や土地を担保にそこに住みながら融資を受けることができるリバースモーゲージが有効な方策として注目されている。しかしながら、リバースモーゲージ特有のリスクへの対処から、対象は公的なサービスでは低所得者層に、民間金融機関では中間層やアッパー・ミドルの一部にとどまっており、利用が難しい高齢者が多数存在するとみられる。

  3. 医療・介護の経済的リスクへの対処法としては、昨今の医療リスク・介護リスクの特徴を捉えたうえで、公的制度によって十分にカバーされない範囲を必要に応じて速やかに補てんすることが必要条件となる。これまでに、国内大手生保・損保、外資系を問わず各社が様々な保険を提供しているものの、十分に経済的な保障がなされているとはいえない。医療保険については、対象疾病の拡大や保障対象となる入院期間の延長のほか、これまで適用外であった在宅医療なども対象とし、カバー範囲の拡充を図ることが求められる。一方、介護保険については、要介護度に応じた給付金額、支給条件の緩和のほか、支給開始までの期間の短縮化などが望まれる。このほか、保険以外の金融商品・サービスについても、リスク・バッファとして検討する余地があると思われる。なかでも、住宅や土地といった実物資産を資金化するリバースモーゲージは、医療・介護など万一の事態に対する資金の提供方法としても有効とみられる。

  4. 高齢化が急進するなか、高齢者ニーズも急速に拡大すると見込まれ、こうしたマーケットを取り込むことは、金融機関にとってビジネス戦略上重要である。そのためには、上記の課題を解決し、金融商品・サービスを拡充する必要がある。もっとも、リバースモーゲージについては、中古住宅市場の整備や債権の証券化の仕組みの構築など、金融機関のみならず、不動産や建設などの他業種や行政の積極的な取り組みが望まれる。
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