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Business & Economic Review 2007年05月号

【SPECIAL REPORT】
最近のわが国のM&Aをめぐる制度的諸問題

2007年04月25日 中央大学法科大学院教授 大杉謙一


要約

本稿は、最近話題となっている三角合併の内容および背景を説明するとともに、その背後にある敵対的買収をめぐる近時の動きを、アメリカやヨーロッパの動向と適宜対比しつつ紹介するものである。

三角合併とは、買収会社が被買収会社の株主に対して(買収会社の株式ではなく)親会社の株式を交付するという方法での合併を指す。合併の当事会社はいずれも日本法人でなければならないが、「親会社の株式」は外国会社のものであってもよいことから、三角合併は外国企業が日本企業を買収する際の有力な手段の一つといえる。三角合併は敵対的買収そのものではないが、敵対的買収を増加させる効果があることから、財界の一部には三角合併を使いにくくしようとする動きがみられる。

しかし、三角合併を抑止することにより敵対的買収を予防しようとすることは、友好的な三角合併の活用までもが妨げられることから、賢明な政策選択とはいえない。今般の法務省令の改正においては、開示情報を拡充し、総会決議において消滅会社の株主が対価の相当性についての判断を行うことをサポートすることにとどめられる予定である。敵対的買収に弊害があるとすれば、それは敵対的買収それ自体への抑止によって対処されるべきである。

敵対的買収は、必ずというわけではないが、弊害をもたらすものもある。敵対的買収に対する法制は、株式の取得行為への規制に重点を置くEU型と、対象会社経営陣による防衛行為をある程度認めるものとするアメリカ型とに大別される。わが国では2006年12月にTOBルールの改正があり、EU型への接近とみることができないではないが、全体としては現状の日本の法制は、アメリカ型に分類される。もっとも、敵対的買収の危険が現実に迫った「有事」において経営者がなす判断、すなわち防衛策の解除・維持・発動に関する意思決定に対して、司法審査が及ぶのかが未だに不明確である。

買収防衛策にはさまざまな存在理由があり、そのことにより議論が複雑となっているが、いずれの存在理由に照らしても、買収防衛策が交渉の道具として用いられることが重要である。敵対的買収を100パーセント阻害することが可能な「絶対的な楯」と誤解することは避けなければならない。買収者も経営者も、冷静に交渉を行い、企業価値を高めるプランを競い合うことが、本来あるべき姿である。そのような方向で、早期にゲームのルールが確立され、企業社会において共有されることが望まれる。

わが国の経済・法律上の政策のあり方として、企業買収全般を推進し、日本経済の新陳代謝を促進することが必要であり、そのためには、法律・制度の設計・運用において、敵対的買収の可能性を排除しないことが重要である。また、防衛策が正しく用いられるためには、社外取締役その他の経営者監視システムの向上(例えば監査役制度の改正)が検討されるべきである。
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