Business & Economic Review 2007年04月号
【STUDIES】
SEM(構造方程式モデリング)による企業経営分析モデルの構築
2007年03月25日 新美一正
要約
- 伝統的な経営分析論では、分析対象を企業の収益性、生産性などの個別側面にいったん細分化し、独立した分析作業を行う。その後に、これら個別分析成果を企業の総合的な評価へとまとめ上げる。こうした分析アプローチは、分析主体や視点を幅広く捉えられる点で優れているが、総合評価のプロセスが分析者の直観や経験に依存し、第三者的に見え難いという欠点を持つ。この問題点を回避するためには、独立して行われてきた各側面の分析結果を企業経営内部の因果関係モデルとして捉え、モデルの正当性を定量的に検証することが必要である。
- 収益性や財務構成などの経営分析論における分析側面は、それら自体は目に見えない概念(潜在変数)であるが、それぞれが財務比率を中心とする観測可能な会計変数と密接な関わりを持っている。そして、これら潜在変数が連なる形で、企業内部での因果関係モデルを形成する。本稿では、こうした複雑な因果構造モデルを推定するために開発されたSEM(構造方程式モデリング)手法を用いて、モデルの定量的な検討を行った。
- 代表的な製造業として食料品、化学、一般機械工具、電気機械器具の4業種を選び、総数394社について、経営分析に関わる因果モデルのSEM推定を行った。その結果、「財務構成」、「収益性」、「成長性」、「リスク」および「企業価値」の五つの潜在変数を含む因果モデルにおいて最適解を得ることができた。モデルの適合度に改善の余地があるものの、総体的には会計・経営分析理論と整合的な推定結果が得られた。
- 冒頭の問題意識に照らした場合、本稿における分析の意義は以下の3点に集約される。
(1)総合的な企業経営評価の形成において、オーソドックスな経営分析手法の正当性が現実の会計・財務データによって定量的に確認された。総体的に見れば、比率分析に重きを置く伝統的な経営分析手法は、市場による企業価値評価と整合的な結果をもたらしていると考えられる。
(2)経営分析に関する因果モデルにおいて、リスク・ブロックを含む形で定式化し、最適解を得ることができた。「企業価値」に対するパス係数の大きさ(絶対値)で比較すると、「リスク」は「成長性」と比肩する水準にあるので、これは、モデルの現実整合性を考えるうえで大きな貢献と言える。
(3)分析の副産物として、潜在変数ごとにそれぞれの観測変数を集約した総合的な評価スコアを得ることができた。これらは各指標の単純和や加重平均とは異なり、企業価値評価との総体的な整合性が確認された客観的なウエートで算出されたものであり、経営分析上の有用なツールとなる可能性がある。