Business & Economic Review 2007年01月号
【PERSPECTIVES 2007~2008年度経済の展望】
日本経済:停滞・再生の軌跡と成長力強化への戦略
2006年12月25日 調査部 マクロ経済研究センター
要約
- 日本経済は2006年11月に「いざなぎ景気」を凌駕し、景気拡大期間の戦後最長記録を更新中とみられる。もっとも、ここにきてa.アメリカ景気減速、b.ITデバイス在庫増、c.消費弱含み等、幾つかの先行き懸念材料が台頭しており、2007年度経済はこれらマイナス材料をこなしていけるかどうかがポイント。一方、短期的には景気が調整局面入りする可能性を排除できないにしても、経済の基調としては中期的な上昇トレンドが当面維持されるとみられる。そうした観点からは、上昇トレンドがいつまで続くのか、あるいは上昇トレンドをよりしっかりしたものにするためには何が必要なのか、という点が焦点。
- 景気の現局面を中長期的なパースペクティブのなかに位置付けるため、バブル崩壊以降の停滞と再生の軌跡を改めて整理すると以下の通り。
まず、1990年代以降の世界経済の枠組みの変化を振り返れば、a.情報通信革命の進展→b.中国等「新興大国」の台頭→c.資源国の高成長―というプロセスを経て、「アメリカ-中国-産油国」間での相互依存関係を根幹とする世界経済の成長循環メカニズムが形成。そのもとで、“資源高/物価・金利安定下の世界的高成長”が実現。
以上のような世界経済の枠組みの変化が生じる過程で、日本経済は90年代、a.高コスト体質の顕在化、b.イノベーション力の弱体化、等を背景に長期停滞を余儀なくされることに。一方、2000年代に入ると、「アメリカ-中国-産油国」間での相互依存関係を根幹とする世界経済の成長循環メカニズムが形成されるもとで、海外需要の拡大が日本経済にフォローに。そうしたなか、企業改革、経済システム改革が進展するに伴い、新しい国際産業連関、販売市場のグローバル化を前提にして日本経済の成長力が回復。
もっとも、現在の上昇トレンドの定着・強化のためには、a.アジア企業の追撃、b.グローバルM&A時代の到来、c.人材不足の深刻化、といった新たな課題に対応していく必要。
- では、今後の日本経済はどのような展開が見込まれるのか。前提となるグローバル環境についてみておくと、向う数年程度は「アメリカ-中国-産油国」間での相互依存関係を根幹とする成長循環メカニズムが作動し続けるもとで、世界的な景気拡大基調が持続する見通し。
そうしたなか、2006年度下期から2008年度にかけてのわが国景気を展望すれば、以下の通り。
イ)2006年度下期は、a.アメリカ景気減速の影響本格化、b.ITデバイスの生産スピード調整、c.大型案件による設備投資上振れ分の剥落により、成長ペースは鈍化。
もっとも、わが国経済は、ITバブル崩壊時や2004年の「踊り場」局面とは異なり、相当規模のショック吸収力を保持しており、景気後退局面入りは回避。
ロ)2007年度入り後は、a.アメリカ景気復調のプラス影響に加え、b.団塊世代の大量定年に伴う退職一時金増加の消費押し上げ効果・人件費軽減を通じた企業収益押し上げ効果、を追い風に、年度下期に向けて成長率が加速。
ハ)2008年度については、過剰投資を回避する形での設備投資の減速が明確化していくものの、a.輸出の好調、b.消費税率引き上げ(2009年4月に2%ポイントを想定)前の駆け込み需要(2009年度以降の需要先取り)により、年度いっぱいは曲がりなりにも回復傾向が維持されると予想。
- 2008年度まで景気回復の持続が展望されるものの、その先を展望するとグローバル環境が悪化する可能性があり、いずれはアゲインストな環境下でも日本経済が自律的成長を実現できるか否かが問われることに。しかも、日本企業にはグローバル市場を前提にした事業展開がますます必要とされるようになり、激化する内外競争を勝ち抜くためには、付加価値創造力がこれまで以上に要請されることに。
このようにみれば、「ディスインフレ下の世界経済拡大」という好環境の持続が見込まれる向う2年程度のうちに、回復し始めた成長力を一段と強化し、その後到来するリスクのある調整を乗り切るだけの強靭な経済体力を獲得することが必要。そのために日本企業は、2007年度を「成長力強化元年」と位置づけ、未来を見越した「三つの投資」に取り組むことが不可欠。
政策面では、当面の成長率の引き上げよりも、a.“三つの投資”を促進するための制度改革、税・財政政策と、b.質の良い投資が持続的に行われるマクロ環境を整えるための財政・金融政策を両輪とする、中長期的な観点からの成長基盤を整備することを目指すべき。