コロナ禍が長期にわたって続くなか、女性を中心に雇用格差の拡大、すなわち正規雇用の増加と非正規雇用の減少が生じている。雇用格差は公平性の点だけでなく、経済全体として消費が十分に喚起されないという効率性の点でも望ましくなく、是正が必要である。
女性の雇用格差が拡大している要因は以下の3点である。第1に、産業構造・職種ニーズが変化している点である。コロナ禍で必要とされる労働者のスキルが変わるなか、業況の良い企業で正規雇用が増加する一方、業況の良くない企業で非正規雇用が減少している。第2に、生計を立てるために就業する必要性に乏しい人々が非労働力化している点である。もともと収入が比較的少ない場合、コロナ禍で対人接触機会を減らすため就職活動をためらうことが多いと想定される。第3に、学校や保育所の休校の影響である。子どもを持つ母親が仕事を休む頻度が増え、離職を余儀なくされる場合があると推察される。この結果、女性の所得格差も拡大している。
さらに、働き方や家族形態の多様化も、所得格差の拡大に作用すると考えられる。まず、働き方の変化として、非正規雇用割合の上昇などにより雇用保険受給者の割合が低下し、景気悪化時に雇用保険に頼ることのできない雇用者が増えている。次に、家族形態の変化として、単身世帯や一人親世帯が増えて、失業した場合に家族の扶養に頼れない人が増加している。
こうした雇用情勢と環境変化を踏まえると、従来のような家族の扶養や雇用保険とは異なる方法で、仕事を失った人々の生活を支える仕組みを拡充・整備していく必要がある。とりわけ、雇用保険を受給できない求職者への支援である求職者支援制度の強化が求められる。具体的には同制度の三つの機能をそれぞれ強化する必要がある。一つ目は、職業訓練の量の拡充との改善である。支援対象者が増えていることなどを踏まえ、規模を大幅に増やすことが望まれる。また、人手不足の状況にある専門的・技術的職業従事者やサービス職業従事者の訓練コースを増やすなど、実際のニーズに応じた訓練内容の構築が必要である。二つ目は、給付金の支給条件の緩和である。世帯所得による支給制限を撤廃することや、就職活動に集中できるように訓練終了後1カ月程度継続して給付金を支給することを提案したい。三つ目は、カウンセリングの強化である。訓練継続の障害となる様々な問題に精通し、その対応についてアドバイスできる人材を育成することが求められる。
以上で議論した求職者支援制度は、必ずしも求職しているすべての生活困窮者の生活を保障する機能を有していない。この制度から漏れてしまう求職者に対しては、各相談窓口に繋げ、必要であれば生活保護を含めた別の支援に橋渡しするなど、各種制度の運営機関が連携して、何も支援を受けられずに困窮したままで放置される人がなくなるように対応することが求められる。
求職者支援制度の強化による費用対効果を一定の前提のもとに試算すると、費用よりも効果が上回る。職業訓練の効果があまねく企業の人的資本の質の高まりとしてあらわれることを踏まえ、費用は法人税で賄うのが妥当と判断される。
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