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【北京便り】
脱石炭の道筋と新型電力システムの展望

2021年09月28日 王婷


 中国では、エネルギー起因の二酸化炭素排出量が最大で、全体排出量の88%を占めます(2020年)。いうまでもなく、現状ではエネルギーシステムが石炭を中心に構築されていることが原因です。数字で見てみると、一次エネルギー消費のうち、石炭の割合が49.7%(2019年)を占め、電源構成のうち、石炭火力設備容量が全体の56.58%(2020年)を占めています。
 中国では、カーボンニュートラル目標の実現に向けて、脱石炭の施策と取り組みが最も重要な課題であることは自明です。

 政策的動向をいくつか紹介しましょう。今年7月1日から施行された「グリーンボンド支援プロジェクト目録(2021年版)」においては、石炭や石炭クリーン利用関連プロジェクトが支援目録から除外されました。石炭や石炭クリーン利用への新規投資には組しないと、金融機関が第一声を発したのです。

 また、同じく今年7月、「脱石炭都市」という目標を達成するため、西安市人民代表大会常務委員会は、「大気環境品質の継続的な改善を促進するための産業構造、エネルギー構造、交通構造の最適化と調整に関する決定」を採択し、5つの発電所と熱電所を停止し、移転させると決定しました。このような極端な事例は西安だけに留まりません。地方政府は、目標達成のためには、火力発電の規模縮小や停止さえ検討しているところが少なくないのです。

 一方、今年に入ってから、新型コロナウイルス感染症の状況が一段落したことから、経済活動が活発化しています。電力需要は例年より大幅に上回り、石炭価格が高騰し、電力需要が多い地域では計画停電などで対応せざるを得ない事態が生じています。

 脱石炭関連の政策について、中国での意見は二分されているというのが正直なところでしょう。
ひとつの極の意見としては、エネルギー転換は経済発展の流れのうえでの必然であり、石炭発電の撤退を早期に計画し、その代替として再エネを求めるべきだというものです。いくつかの研究では、2050年の電源構成シナリオにおいて石炭火力はもはや存在しないというものもあります。代表的なのは、国家発展投資集団の姿勢で、同集団は国内の火力発電所への投資を行わないことを表明しています。

 もうひとつの極にある意見は、カーボンニュートラルな電力システムとはゼロカーボンを意味するものではなく、「石炭を減らす」ことよりも「排出量を減らす」ことに重点を置くべきだというものです。言い換えれば、「石炭のクリーンで効率的な利用を強力に推進することが賢明だ」という主張です。国家電力研究所環境保護部の朱部長は、ある会議において、中国は省エネなどを率先して行い、8億キロワット以上の火力発電設備を維持すべきだと主張しています。

 中国国内のさまざまな論調に対して、中央委員会政治局は、7月末に開催した経済運営会議において、「3060目標を実現するためには、協調的かつ秩序立てて行うことが重要。キャンペーンスタイルの取り組みをやめて、アクションプランを早期に作り、全国で協調して「先立後破」(先に新しいシステムを作ってから、古いシステムを壊す)するようにと指示しました。脱炭素が目標でありながらも、短期、中期、長期を踏まえて進めていかざるを得ないとの意味合いです。

 石炭と再生可能エネルギーの今後について、最近国家気候変動センター前主任の李氏と議論しました。彼曰く、脱石炭や再エネを中心としたエネルギーシステムの構築は、一夜にして実現できるものでなく、ピークアウトとカーボンニュートラルは中国のあくまで中長期目標で、化石燃料削減と再エネ導入をバランスよくやらないといけない点を強調していました。これまで十数年間、再エネ導入率は年間1~2%に調整されてきており、2020年に一次エネルギーに占める再生可能エネルギー率は15.3%に達しています。今後、年間平均で1.5%成長で進めば、2030年には再エネ率が30%、2050年に50%、2060年に75%に達成することができるとの予測のようです。

 2021年3月には、中央財経委員会第9回会議において、習近平国家出席が「再エネを主体とした新型エネルギーシステムの構築」を指示しました。国家発展改革委員会が提唱していた「高い再生可能エネルギー率に適応する新しい電力システム」より一歩踏み込んだ内容です。この指示の後、新世代電力システムの構築が今後の方向性として明確となり、国家電網や南方電網をはじめ、電力関連の企業が矢継ぎ早に計画づくりに取り組んでいるそうです。

 再エネを主体とした新型電力システムについて、まだ明確な定義はありません。国家電網関係者へのインタビュー記事を見る限り、このシステムは、再生エネルギー+水素+エネルギー貯蔵+電気自動車+デジタル化+インテリジェント化という要素を組み合わせて形作られるもので、あらゆる種類のユーザーの多様な電力ニーズや気象状況の急速な変化にも対応できる、というのが「売り」のようです。

 石炭は中国エネルギー供給の基盤に位置してきました。カーボンニュートラルを実現するためであっても、安定したエネルギー供給を犠牲にすることはできないでしょう。新型電力システムの構築の過程において、初めて脱石炭を実現する道筋が見えてくるような気がしています。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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