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CSRを巡る動き:生物多様性保全と企業活動

2021年10月01日 ESGリサーチセンター、二宮昌恵


 世界中で気候変動対策とその情報開示要請が大きく進んできたことは、多くの人に実感されているところでしょう。さらに、次なる取組として、自然や生物多様性の保全に向けた動きが加速していることにも目を向けたいと思います。その背景には、自然資本※1の適正な利用や生物多様性の保全が、経済活動の継続にも欠かせない条件との認識が強まってきたことがあります。

 2021年2月に、英国財務省が生物多様性と経済の関係を分析したレポートを発表しました。経済学者でケンブリッジ大学名誉教授のダスグプタ氏が執筆したこのレポートは、「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー」と題され、経済学者は自然が経済活動で果たす役割を見過ごしているとして、自然も生産要素に含める独自の生産関数を提示しています。また、GDPには自然環境の劣化など資産価値の下落が含まれていないため、経済パフォーマンスの判断に用いることは「誤用」であるとして、自然資本を含む「包括的な富」を指標のひとつにすることなどを提言しています。

 加えて、来年にかけて、生物多様性に関する新たな目標が国内外で議論される見通しです。21年10月・22年4月の二度に分けて、国連の生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)が開催予定であり、10年前の「愛知目標」を改訂した次期世界目標について議論が行われます。国内でも、2030年までの次期生物多様性国家戦略が策定される予定です。なお、それに先立って公表された研究会報告書においては、3つの新たな取組が提言されており、その1つとして、生物多様性のリスクと機会をビジネスやライフスタイルに組み込む点が挙げられています。

 国際的な目標を企業活動に落とし込み、目標達成の確度を高めるべく、民間の活動と繋ぐプラットフォームも構築されています。21年6月には、生態系や森林、河川など自然が失われることによる企業財務への影響をどう開示するかを検討する国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が正式に発足しました。

 TNFDは、「気候関連の財務開示に関するタスクフォース(TCFD)」の気候変動分野における情報開示フレームワークの構築成功を受けて、2023年中に、より幅広く自然環境全体に関する情報開示フレームワークの確立を目指しています。非公式作業部会には、欧米の金融機関を中心に73団体(2020年12月時点)が参加し、自然関連のリスクと機会を踏まえた企業の財務上の影響や、企業がどのように自然に影響を与えるかといった点の開示手法を検討してきました。フレームワークの公表後、TCFDが辿った道と同様に主流化した場合、生物多様性の保全が、企業評価や投資の意思決定の際の重要な要素となることが考えられます。

 企業活動と生物多様性を巡る動きは、TNFDに留まりません。「持続可能な経済活動」を分類すべく、「タクソノミー」の制定を進めているEUは、その一環として、「生物多様性とエコシステムの保護と回復」等を目的にした経済活動分類の案を8月に公表しました。どのような産業や業種が生物多様性の保護に資するのかが列挙されています。また、企業がどのような考え方を以て生物多様性保全に取り組めばいいのかといったツールの整備も進んでいます。例えば、非営利団体と企業の共同組織であるSBTN(Science-Based Targets Network)は、企業が自然に関して科学に基づく目標(SBTs)を設定する指針を示した「SBTs for Nature初期ガイダンス」を公表しています。

 気候変動が事業に与える影響のように、生物多様性毀損の影響についても今後更に議論が深まることが想定され、自然由来のリスクの認識や、情報開示の求めに改めて備えていく必要があります。

※1 自然環境を企業の経営を支える資本の一つとしてとらえる考え方であり、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)を指す。


本記事問い合わせ:二宮 昌恵
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