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日本総研ニュースレター 2021年4月号

企業起点の社会課題の解決を~モノ・サービスと共に提供する新たな役割~

2021年04月01日 和田美野


企業は社会課題の解決に資するモノ・サービスの提供を
 自らが消費するモノ・サービスが社会課題の解決に役立つかどうかについて、消費者は従来よりも強く意識するよう
になり、購入動機の一つにも挙げられるようになってきた。
 ここで消費者が求めるモノ・サービスは、社会貢献や環境配慮等を前面に押し出してブランド化したものではない。消費することによって日々の生活がより豊かになったと感じながら、社会課題の解決に参画できるモノ・サービスである。
 我々の身の回りで発生している社会課題の解決には、消費者の参画が欠かせない。例えば、大きな社会課題の一つである食品ロスの場合、国内で発生した量の約半分は家庭から発生しており、消費者自身の手で解決しなければ根本的な解決は難しい。しかし、解決に向けた取り組みを実際に行っている消費者は、まだ多いとは言えない。啓発活動が行われたとしても一過性の行動変容に過ぎず、継続的な取り組みとはなりづらいからである。
 企業側は、事業関連の社会課題を解決することも必要であるが、同様に、消費者が社会課題の解決に参画できるモノ・サービスを提供していくことも急務となったのである。

新たな価値提供と食品ロス削減を両立するサービス実証
 日本総研でもそうした取り組みを行っている。「消費の最適化を起点とし、サプライチェーン全体を最適化し、食品ロスを消滅する」をビジョンに2019年4月に立ち上げ、運営している、SFC(スマートフードコンサンプション)構想研究会の活動である。同研究会では、伊藤忠インタラクティブ、イトーヨーカ堂、凸版印刷、三井化学らとともに、フードチェーンの最川下である消費者を起点として検討を続けてきた。
 同研究会における検討の成果を基に、2020年度には、経済産業省「流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業)」を活用した実証実験を実施した(※)。本実証実験では、青果物の流通過程で取得できるデータを活用して青果物の鮮度を可視化させ、ダイナミックプライシング機能を持つeコマ―スや、冷蔵庫の中身を可視化するサービスを提供した。また、消費者が参画しやすいよう、消費者が日々の購買・消費を上述した機能・サービスを活用しながら行えば、食品ロス削減に取り組める設計とした。
 本実証実験の結果、「消費のタイミングを基に新しいものから古いものまで幅広い鮮度の商品を購入する」や「鮮度の落ちた(と思われる)食品から積極的に利用する」といった消費者の行動変容が確認された。また、鮮度に合わせたダイナミックプライシングを実施することで、「同一商品の品質のばらつきを許容する」消費者が多いことも確認された。
 実証実験に参加した消費者からは、「便利なサービスと思い利用していたが、結果として食品を捨てないようにしようという意識も高まり、捨ててしまう食材が減った」という意見も聞かれた。今後、定量的な分析を行うには、対象範囲の拡大が必要であるものの、企業側が、鮮度という新たな価値を消費者に提供しつつ、消費者が日々の生活の中で社会課題の解決に気軽に参画できるサービスを提供できる可能性が示唆されたと考えている。

社会課題の解決=市場の維持・創出
 2019年以降、ステークホルダー資本主義が株主資本主義(株主至上主義)と対比される形で注目され始めた。企業と多様なステークホルダー顧客、従業員、取引先、地域社会(環境を含む)、政府、株主等)との関係性を重視し、企業活動の成果をそれらステークホルダーと分かち合いながら、長期的な企業価値向上を目指すという考えである。これは、企業が多様なステークホルダーが関係する社会課題に正面から向き合うことに他ならない。
 これからの企業は、社会課題の解決を単なるCSR的活動としてだけではなく、市場の維持や創出と同義と捉える必要がある。つまり継続的な成長のための戦略として、事業(モノ・サービスの提供)による課題解決に取り組むことになる。
 ただし、社会課題の解決には、どうしても一定のコストがかかるため、その負担を消費者と企業で分かち合う新たなビジネスエコスステムの構築が必要となる。実現には、当然、消費者からの理解が欠かせない。自社のモノ・サービスが豊かな生活を提供すると同時に社会課題の解決につながるものであることを訴求し続けることが、今後の経営にとって最も重要なテーマの一つとなる。

(※) ニュースリリース『「鮮度の可視化と個別追跡管理」による食品ロス削減の実証実験について』(2021年1月20日)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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