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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】今後の米中関係はどうなるか

2021年08月17日 副理事長 高橋邦夫


この1カ月余の中国を巡る内外の動きを見ると、国内的には7月1日の中国共産党成立100周年記念祝賀行事と、その際、習近平総書記が行った演説が最も重要な動きであり、対外的には7月26日、天津において訪中したシャーマン米国務副長官が王毅・国務委員兼外交部長及び謝鋒・外交部副部長(米国担当)それぞれと行ったハイレベル協議に集約される米中関係の推移が重要であることに、恐らく誰も異を唱えないであろう。このように、突如起きたように見える中国と欧州諸国との関係の変調について、その原因も含めて考えてみたい。

今回は、「今後の米中関係はどうなるか」と題して、これら国内・対外の動きを通底する今後の中国と米国の関係について、主に中国側の発表文書に基づいて、読み解いていくことにしたい。

1.中国共産党成立100周年記念大会における習近平総書記の演説に見られる対米政策

(1)7月1日に習近平総書記が行った「重要講話」は、その後「七一講話」と称されるようになっており、各機関・職場で学習活動が展開されるなど、今年の重要文件の1つとなっているが、その中で、習近平総書記は、対米関係をどのように見ているのであろうか。

「七一講話」には、「米国」(注:中国語では「美国」)との文字は一切出てこないが、前後の文脈から、明らかに米国を意識して述べた、と考えられる箇所が、筆者が数えた限りでは、以下の4カ所見られる。

① “中国共産党と中国人民を分割し、対立を生もうとする企みは、全て絶対に達成できない。”
この件は、明らかに昨年7月に当時のポンペオ米国務長官がカリフォルニア州のニクソン元大統領記念図書館で行った演説で、中国共産党と中国人民を分けた上、中国共産党を批判したことを念頭に置いた表現であろう。

② “高い質の発展を推進し、科学技術の自立・自強を推進しなければならない。”
中国を代表する通信機器企業「ファーウェイ」に対する米国製部品の供給禁止に見られるような、米国がハイテク分野で進めている中国との「デカップリング(分断政策)」を念頭に、自前の科学技術の発展を訴えたものであろう。

③“我々は全ての有益な建議、善意の批判は歓迎するが、「教師面」した、偉そうな説教は断じて受け入れない。”
米国を中心とする欧米の、新疆ウイグル自治区や香港での人権抑圧あるいは民主主義抑圧に対する批判を念頭に置いたものであろう。

④“中国人民は、他国の人民を脅かしたり、圧迫したり、服従させたことは、これまでなく、現在もなく、今後もない。同時に、中国人民は、如何なる外来勢力が我々を踏みつけ、圧迫し、こき使うことを決して許さず、そうした妄想を抱く者は、必ずや14億以上の中国人民の血肉で作られた鋼鉄の長城にぶつかり血を流すであろう。”
これも、西側の中国批判を念頭に置いた発言であろう。

(2)こうした「七一講話」の米国を意識したと思われる箇所を読むと、中国は米国との対立・デカップリングも辞さず、との対応を取っていくと思われるが、果たしてそれだけであろうか。

筆者は、この演説の持つ意味を2つの視点から考えた。第1は、勿論、こうした演説を行えば、中国に駐在する各国メデイアを通じて、瞬時に演説内容が米国を含む世界中に伝わることは確かではあるが、やはりその「聞き手」の中心は、天安門広場に集まった民衆であり、国内の中国国民であったという点である。そしてそのこととも密接に関係するが、第2の点は、この中国共産党成立100周年記念大会を皮切りに、中国は来年秋の第20回共産党大会に向けて「政治の季節」に入ったという事実である。

こうした視点に立てば、この「七一講話」は、中国国民に向けた習近平総書記の「所信表明演説」であったと言えるのではないだろうか。そうだとすれば、中国国民に対し、中国は決して米国の言いなりにはならないとの強い意思表示をするというのが、この演説の最大の目的であったと言えるのではないだろうか。

(3)次に、上記の今後の「政治の季節」の中身を少し詳細に見てみよう。「最近、開催された可能性が高い」と言われる、党長老も交えた非公式の「北戴河(ほくたいが)会議」での今年秋以降の政策・人事などの根回し、秋の共産党中央委員会全体会議(開催されれば、「六中全会」)、年末の中央経済工作会議と続き、来年に入ると、本来は国際的行事ではあるものの、習近平・国家主席の世界のリーダーたる存在をアピールする場にもなる2月の北京冬期オリンピック開催、そして3月に例年開催される全国人民代表大会(全人代)の開催が続き、来夏の「北戴河会議」、そして秋の第20回共産党大会と続く、一連の流れである。

特に、多くの中国専門家が、第20回党大会で、習近平総書記は第3期目を続けるのではないかと見ており、そうだとすれば、それを党員、特に幹部党員に納得させるための、一定以上の経済成長の確保、安易な妥協は出来ないものの閉塞状況にある対米関係の打開、などを上記のそれぞれの会議・行事でどう説明し、また実際に実現していくか、権力の一局集中と言われる習近平政権にとっても、気の抜けない1年余がこれから続く。

2.天津における米中高官会談
続いて、7月26日に天津において行われた米中高官会談、具体的には訪中したシャーマン国務副長官と王毅・国務委員兼外交部長及び謝鋒・外交部副部長(米国担当)との会談について、見てみよう。…

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【中国情勢月報】今後の米中関係はどうなるか(PDF:888KB)
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