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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.82

地方政府債務の増加が続く中国ー地方融資平台が経済の不安定要因に

2021年08月16日 佐野淳也


習近平政権は2020年末頃から、「隠れ債務」を含む地方政府債務の増大を経済の安定性を左右する問題と見なし、解決に向けた方針を示すようになった。隠れ債務とは、地方政府がインフラ整備の資金調達目的で設立した地方融資平台(以下、LGFV)の債務を指す。国際通貨基金(IMF)は、LGFV債務を独自に試算し、LGFV債務の急増が政府債務全体の増加の主因と指摘している。

LGFVの債務が急増した理由としては、急速な都市化を背景にした資金調達ニーズの高まりが挙げられる。地方政府は、債務の増加よりも地方経済の活性化を優先し、LGFVを使って調達した膨大な資金を都市インフラ整備事業に投じた。これにより、地方では都市インフラ整備が成長をけん引し、新たなインフラ需要を生むという好循環が働いた。

2010年代半ばに、習近平政権は地方財政改革を実施した。改革では、地方債の発行容認で地方政府が抱える正味の債務残高を中央政府が掌握出来る「債務の可視化」やLGFV債務の借り換えによる負担軽減を行った。にもかかわらず、LGFV債務の増加に歯止めはかからなかった。

中央政府は、地方政府がLGFVの資金調達の際に付与する「暗黙の保証」を黙認し続けた。LGFVに対しても、地方政府に代わって資金を調達することは禁止したが、都市インフラ整備事業に携わることは認めた。その結果、地方政府とLGFVの曖昧な関係が温存され、地方財政改革は失敗に終わった。

習近平政権は、LGFV債務の処理や歳入基盤の強化といった政策を通じて地方政府債務の抑制を図る方針である。支払い能力のないLGFVについて「破産か清算」を打ち出した点は、これまでにない積極的な姿勢と評価出来る。もっとも、実際にはLGFVを起点とする金融危機を回避する観点から、破産や清算は最小限に抑えるとみられるため、地方政府債務は引き続き増加する見通しである。

現在の中国経済は、不動産価格の急落によって深刻な打撃を受けかねないという潜在的なリスクを抱えている。一部の大都市の住宅価格が平均年収の40倍を超えるなど、中国の住宅市場はバブルの様相を強めつつあり、何らかのきっかけで大幅な価格の調整が起こりかねない状況にある。不動産価格が急落した場合、LGFVや住宅購入者、金融機関などが得ていた利益は損失に転じ、経済成長の大幅な鈍化を招く引き金となる。

LGFVは都市インフラ整備事業を通じて地方経済の発展に貢献したものの、その結果として債務の増大に伴う金融システムの不安定化など、いまやマイナスの影響が懸念される存在になっている。習近平政権は、LGFVの在り方そのものの見直しに取り組む必要がある。
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