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JRIレビュー Vol.10, No.94

後発医薬品使用促進政策の転換をーインセンティブは医療提供側から患者へ、目標は数量から医療費抑制額

2021年08月04日 成瀬道紀


後発医薬品の使用促進は、医療費抑制の有効な手段である。かねてより政府は2020年9月までに後発医薬品の数量シェア80%以上という目標を掲げ、使用促進に注力してきた。現在、その目標達成は時間の問題となっているものの、後発医薬品の使用促進による医療費抑制の余地はなお大きく、さらなる使用促進は極めて重要な課題である。一方で、後発医薬品を取り巻く環境変化もあり、従来の使用促進策および目標設定方法の限界が明らかになっている。今まさに後発医薬品の使用促進について新たな方針を定めるべき局面にある。本稿は、従来の使用促進策の特徴と課題を整理したうえで、新たな方針への転換を提言する。

政府のこれまでの後発医薬品使用促進策には、二つの大きな特徴がある。一つは、医療提供側を対象とした金銭的インセンティブの付与である。薬局への後発医薬品調剤体制加算のほか、病院・診療所への一般名処方加算・後発医薬品使用体制加算・外来後発医薬品使用体制加算など、後発医薬品の使用を増やすと収入が増える制度が設けられてきた。なかでも、薬局に対して手厚くなっていた。もう一つは、数量シェアを重視してきたことである。国としての目標設定も数量シェアであり、金銭的インセンティブも金額ではなく数量シェアに基づいて定められた。

こうした従来の使用促進策は後発医薬品の普及初期においては、一定の合理性が認められたものの、近年の環境変化もあり、その弊害が目立つようになっている。まず、医療提供側を対象とした金銭的インセンティブは、2019年に1,400億円超に上ったとみられ、後発医薬品の使用による医療費抑制効果を一部相殺している。次いで、後発医薬品の選択は患者の判断による部分が大きくなっているにもかかわらず、そうした働きかけが欠けている。さらに、数量シェアを重視すると、使われる数量は少ないものの単価が高い先発薬を後発医薬品に置き換える効果が過小評価されることになる。近年、相対的に高価なバイオ医薬品市場が急拡大している。

後発医薬品使用促進政策の転換のポイントは二つある。一つ目は、医療提供側を対象とした金銭的インセンティブを廃止したうえで、後発医薬品のある先発薬を使用した場合の差額を全額患者の自己負担とすることである。こうした措置によって最大年間約1兆円の医療費を抑制できると試算される。内訳は、金銭的インセンティブの廃止で1,400億円、差額の自己負担化による後発医薬品の使用最大化で8,700億円である。
薬局は年間1,200億円超の金銭的インセンティブを受けており、廃止の影響を大きく受けることになる。もっとも、金銭的インセンティブ廃止に伴う薬局の利益率への影響を試算すると、現在の5.5%から3.9%に低下はするものの、なお小売業の平均を上回る水準を確保できる。そもそも、薬局の利益は、こうしたインセンティブではなく、本来業務への診療報酬によって確保されるべきものであろう。
差額の自己負担化については、これまでに何度も議論され、慎重意見が強く実現しなかった経緯がある。差額を自己負担化した場合の最大の懸念は、医療上の理由で先発薬が必要な患者が先発薬を利用しづらくなることである。これに対しては、医療上の理由がある場合に限り、適用を免除する救済措置を設けることで対応が可能であろう。

二つ目は、数量よりも医療費抑制額そのものを重視することである。国としての目標は医療費抑制額をベースに設定すべきであるし、医療提供側を対象とした金銭的インセンティブについては、前述のように最終的には廃止を目指すべきである。仮に薬局経営への急激な打撃緩和の見地などから暫定的に残すとしても、数量ベースから医療費抑制額を基準としたものへ転換することが望ましい。なお、2020年9月時点で、本来重視すべき医療費抑制額ベースのシェアは68.1%と、数量シェア(78.3%)を大きく下回っているとみられる。

本稿の提言は政治的ハードルが高い施策である。最終的な判断は国民が行うべきものであるが、必要なのは長期的な視点に立って国民が適切な判断を行うことのできる環境整備である。そうした観点から2点示したい。一つ目は、国民全体の意見を意思決定に反映させることである。医療制度は実質的に専門家による会議体で意思決定が行われがちである。細かな部分は専門家にゆだねるにしても、本来、大きな方針は資金の出し手である国民自らが決めるべきである。そのうえで二つ目は、国民に対して適切な判断が可能になる情報を提供することである。後発医薬品があるにもかかわらず先発薬が使用されることでどれだけ保険料や税金が押し上げられるのかなどを明らかにし、負担と給付をセットにしたうえで、国民に判断を求めることが不可欠である。

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