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気候変動の影響を考慮した水災害対策で重要となる3つのポイント

2021年07月13日 石川智優


 また今年も豪雨による災害が発生した。静岡県熱海市で、2021年7月2日から3日にかけて降り続いた雨が原因と考えられる土石流発生は、7月8日時点では被害の全容が明らかになっていないものの、甚大な被害をもたらしたことは間違いない。また、これを執筆している時点でも、鳥取、山口、広島といった各県で大雨が降り続いており、予断を許さない状況となっている。豪雨災害は今年だけではない。2020年7月には熊本県の球磨川で大規模な洪水が発生し、約70名が亡くなった。2019年の台風15号は大規模な停電を引き起こし、台風19号は日本の各地で洪水被害を発生させた。2019年の洪水被害額は総計で2兆1,500億円に上り、統計開始以来最大となったといわれている。

 このような気候変動の影響と考えられる昨今の豪雨やスーパー台風による水害の増加は、これまでの治水方法を見直すことを余儀なくしている。従来、日本で取り組まれてきた治水は水位を下げることを原則として、過去の雨量等の統計データをもとに適切な大きさのダムや河川に堤防を設置する等、治水施設を整備することで対応してきた。こうした対応の考え方のもと、日本では治水機能を持つダムが昭和60年(273ダム)から平成30年(558ダム)の間に約2倍に増えた。多くの治水インフラが整備されたと思われてきた。しかし、そのような状況にもかかわらず、災害の激甚化には対応できていない。今後ダムの新設等も考えられるが、莫大な費用がかかるのも事実だ。加えて、ダム新設には時間がかかり、目先の災害対策には繋がらない。

 そこで、政府は「流域治水」という施策に取り組み始めた。流域治水とは、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方である。また、治水計画を「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直し、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、地域の特性に応じ、①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策、②被害対象を減少させるための対策、③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策をハード・ソフト一体で多層的に進めようというものである。これらの実現に向けて流域治水関連法案(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案)も国会で可決・成立した。

 この流域治水政策の中では利水ダムの治水利用や田んぼダムの活用、新たな技術開発等様々な施策が検討・推進されるようになった。今後はこれらの実装を加速し、まずは短期的にでも水災害を最小限に抑えることが求められる。従来、被害を最小限に抑えることに大きな効果を発揮してきた「川の水位を下げる」という原則は変わらず重要であり、多くの治水インフラを整備してきた日本においてこの原則を最大限発揮するためには以下の3つのポイントがある。

① 分散型治水の実現(ステークホルダーの巻き込み)
② 既設ストックの災害利用における持続可能なビジネスモデルの構築(ステークホルダーの活性化)
③ 気象予測精度の向上(ステークホルダーとの折り合い)

これら3つの概要を以下に紹介する。
① 分散型治水の実現
1つの施設であれば大きな貯水機能は持っていないものの、複数の分散している施設をデジタル技術でつなぎ合わせることで莫大な貯水量が可能と見立てて管理・運用する「分散型治水」が実現できれば、既設ストックを最大限活用可能となる。このような小規模分散型が大規模な影響力を持つためには施設間、また管理者間の連携が必要不可欠だ。

② 既設ストックの災害利用におけるビジネスモデルの構築
流域関係者全体で取り組む場合、視点として重要となるのが財源面で持続可能であるかどうかである。持続可能とするためには「防災は国や自治体が取り組むもの」から「国民全員で取り組むもの」に意識を変えなければならない。そのためには防災に資本投下することがマイナスからゼロではなく、事業として回るビジネスモデルが必要となる。また、流域の住民や田んぼ等を保有する市民等との合意形成も重要である。

③ 気象予測精度の向上
治水機能を高めるだけでなく、利水ダム等を治水目的に利用したことに伴う損失を最小にするために気象予測精度の向上は欠かせない。技術により気象予測の精度が向上し、ダムの運用側でも精度の向上した気象データを活かせるようにシステム面の強化を図れば、余裕をもって水位調整ができるうえ、利水ダムの治水利用によるネガティブな影響も最小にできる。気象予測精度の向上は治水のみならず、多目的ダムの利水利用の機能をも高めることに繋がる。渇水リスクが低減するうえ、たとえば農業では大雨や干ばつの予測に応じて農作物や栽培時期を選択し収益向上を図ることが可能となるかもしれない。

 これらを実現することが流域治水施策を実現し、被害を最小限に抑える、最も確実で最短のルートとなるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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