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【北京便り】
中国における水素エネルギーの発展

2021年06月08日 王婷


 今年3月に採択された「中華人民共和国の国民経済と社会発展の第14次5年計画及び2035年長期目標綱要」第9章「戦略性振興産業を大きく発展させる」では、「量子技術、遺伝子技術、深海開発、水素エネルギーとエネルギー貯蔵などの最前線の科学技術と産業に変革を起こし、未来の産業インキュベーションを実施し、加速させ、未来の産業を計画する」と記述がなされました。水素エネルギーは、未来の先端的技術として位置付けられています。

 水素エネルギーに関する戦略的位置づけが、近年、さらに重要度を増しています。これまでの経緯をまず振り返ってみます。2012年策定された「省エネ及び新エネ車産業発展計画(2012~2020年)」、2015年に公表された「中国製造2025」、2016年公表された「13次5カ年国家戦略性新興産業発展計画」などにおいて、燃料電池車を重点分野とし、技術開発とその応用を支援することを明確にしました。2019年3月には、水素エネルギーが「政府工作報告」で提起されて、2020年4月に国家能源局が作成した「中国エネルギー法(パブコメ)」において、水素が初めてエネルギーとして計画に組み入れられました。

 ただ、全国統一の水素の発展戦略、ロードマップは存在しないままでした。それが、昨年2019年6月、水素エネルギー・燃料電池産業戦略創新連盟が「中国水素エネルギー・燃料電池産業白書」を発表し、2050年に向けた産業発展のロードマップが公開されました。

 中国で水素の応用は3つの分野を中心に展開するといわれています。(1)交通分野、(2)再生エネルギーの電力貯蔵分野、(3)産業と建築分野です。交通分野の燃料電池車導入目標は、2025年に10万台、2035年に100万台、2050年に3,000万台と設定されました。再生エネルギーの電力貯蔵分野では、2025年に1,000GW、2050年に4000GWの容量を目標としています。産業分野では、鉄鋼、石油化学、化学工業の3つの業種を中心とするとのことです。建築と民生分野では、水素燃料電池コジェネレーション、天然ガスと混合してガス管路へ供給することを中心に、住宅と商業ビルなど普及するとの目標が定められました。

 最近、地域レベルの水素利用モデル事業も目立ちます。2020年6月までに、水素産業発展計画を策定したのは10の省や直轄市でした。また、地方都市や県レベルの都市で、水素専門計画を作成したのは30カ所以上に上っています。山東省は「氢進万家(ケイ進万家)」(水素を一万世帯に供給)という実証事業を実施すると、4月に発表しました。済南市、青島市、濰坊市(イ坊市)、淄博市(シ博市)の4つのパイロット都市が盛り込まれ、山東省は、中国で初めて水素エネルギーの大規模な利用を推進する実証省となります。

 現在、中国の水素エネルギー産業の発展を支える技術基準、法規制、政策体系はまだまだ未整備で、産業の発展を阻害しているとの指摘があります。 山東省においては、基礎インフラと水素資源の多く存在している長所を最大限に活用し、「氢進万家(ケイ進万家)」技術実証プロジェクトを実施することになりました。末端の需要家ニーズを踏まえ、水素利活用の政策、イノベーション、産業チェーンの統合を促進し、水素エネルギーの発展を加速させていくとの狙いだそうです。

 再生エネルギーの電力貯蔵分野では、最近、太陽光や風力発電を行う再エネ事業者がグリーン水素の事業に参入しようとする活動が活発化しています。例えば太陽光発電の大手企業である陽光電源(Sungrow)が吉林省政府や内モンゴル自治区政府とMOUを締結し、太陽光発電でグリーン水素を生産する取り組みを構想しているとのことです。また、単結晶シリコンウエハーを生産する世界トップ企業である隆基株式会社(Longji Clean Energy)は、今年3月に西安で隆基水素エネルギー科技有限公司を設立し、創立者の李氏が自ら董事長と総経理を兼任する力の入れようです。晶科能源(Jinko Energy)も社内で「水素」+「太陽光」の横断部署を新設し、低コスト、安全なグリーン水素の製造ソリューションを提案する狙いだということです。

 中国では、2030年に太陽光発電と風力発電の累計導入量を12億kWとする目標を掲げています。再エネの大規模導入により、発電コストはさらに低減するでしょう。また水素の利用拡大につれ、水素製造のコストも減るでしょう。再エネからグリーン水素を製造する商業化段階が現実になることも間違いありません。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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