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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】“中国の特色ある”多国間主義

2021年05月28日 副理事長 高橋邦夫


近年、中国は事あるごとに「多国間主義」と「自由貿易」を掲げ、それは特に、米国がトランプ政権であった時に、「アメリカ・ファースト」に基づき、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱、UNESCO(国連教育科学文化機関)からの脱退、イラン核合意からの離脱など、次々と多国間の枠組みから抜けていったこととの対比で、「多国間主義」を標榜する中国が、プラスのイメージを持って受け止められることとなった。
最近も、5月6日に習近平国家主席がグテレス国連事務総長と電話会談を行った際には、国連という「多国間主義」を最も具現する機関の長を相手とする会談であることもあり、習近平主席は、新型コロナウイルス感染問題や気候変動問題への対応を挙げて、「多国間主義」の重要性を訴えている。
一方、この1カ月の中国外交を見ると、筆者が以下で「“中国の特色ある”多国間主義」と名付けた「中国独特の多国間協力」を始める動きが見られた。本ペーパーでは、この「中国独特の多国間協力」に焦点を当てて、その特徴・意味などを考えて見たい。

1.中国の言う「多国間主義」に2種類あり

中国が頻繁に「多国間主義」に言及していると述べたが、その内容を仔細に見ると、中国の言う「多国間主義」は2つのカテゴリーに分けられることがわかる。1つは、国連に典型的に見られるように、中国も1つの加盟国として参加する多国間の枠組みである。因みに、中国政府は、今年は中国(中華人民共和国)が国連での議席を回復して30周年の記念すべき年であるとして、その意義を強調している。
もう1つのカテゴリーは、中国が主導して作る多国間の枠組みである。それは、ソ連との国境画定交渉から始まり、その後のソ連の崩壊、ロシアと中央アジア諸国の出現を経て、2001年に正式に発足した「上海協力機構」に始まると筆者は見ているが、その後中国の経済力が徐々に高まるにつれて、中国はそれぞれの目的を持つ地域的な多国間協力の枠組みを積極的に作ってきている。
ここでは、以上のように中国のいう「多国間主義」には2つのカテゴリーがあるということを念頭に置きつつ、一旦目を最近の動きに戻して、中国が南アジア諸国、中央アジア諸国それぞれと新たな地域的協力機構設立の「萌芽」とも思える動きを始めたことを、まず御紹介したい。

2.中国・南アジア諸国外相会談の開催

(1)4月27日、中国の王毅・国務委員兼外交部長は、オンライン方式ではあるものの、パキスタン・ネパール・スリランカ・バングラデシュ・アフガニスタンの5カ国の外相(アフガニスタンは外相代理)と外相会談を行った。今回の外相会議にいたるまでの経緯を中国外交部の累次の発表から見ると、まず昨年7月に中国・アフガニスタン・パキスタン・ネパール4カ国外相が新型コロナウイルス感染問題をオンラインで協議し、同11月には中国・パキスタン・ネパール・スリランカ・バングラデシュ5カ国の外務副大臣が同じく新型コロナウイルス感染問題についてオンライン会議を実施した。それらの会議を受けて、今年1月には、今回のメンバーと同じ中国とアフガニスタン・パキスタン・ネパール・スリランカ・バングラデシュの計6カ国が新型コロナウイルス感染対策と貧困削減を話し合う初めての局長級の協力ワーキング・グループ会合を開いている。

(2)今回の外相会議では、新型コロナウイルス感染問題、コロナ後の経済復興、更には国際協力・地域協力について意見交換したとのことであるが、筆者が注目したのは、まず「達成されたコンセンサスと具体的成果」と題する文書で、重要コンセンサスの1つとして「協力の勢いを維持し、引き続き6カ国の外相・副大臣・局長級を通じて、不断に実務協力の分野を広げ、地域協力の動きを増強する」と謳っていることである。更に、「共同声明」では、今後実施していく具体的な実務協力として、「中国・南アジア諸国緊急物資備蓄倉庫」の設置、また「中国・南アジア諸国貧困削減・発展協力センター」の設置を行うとし、更に「農村Eコマース・貧困削減協力フォーラム」も開催するとしている。

(3)これらのことから見て取れることは、今回の外相会議が1度限りの会議ではなく、副大臣会議や局長級会合も含めて、今後も組織的に運用していくということであり、またそれらを通じて、単に協議するだけでなく、協力の具体的実施機関としての「緊急物資備蓄倉庫」や「貧困削減・発展協力センター」を設立し、また農村の発展や貧困削減を協議するフォーラムを開催するなど、明確に中国と南アジア諸国との協力の機構化(メカニズム化)を目指している様子が見て取れる。

3.「中国+中央アジア5カ国」外相会議の開催

(1)上記の南アジア諸国の外相との会議から1カ月も経たない5月12日、王毅・国務委員兼外交部長は、今度は陝西省西安市において対面方式で、第2回「中国+中央アジア5カ国」外相会議を開催した。中央アジアからは、カザフスタン・キルギス・タジキスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタンの5カ国の外相が参加した。…

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