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価値観の変化を体現する「アズ・ア・サービス」

2021年05月25日 辻本まりえ


 新型コロナウイルスの流行により、「巣ごもり消費」と呼ばれるように人々の消費行動が変化している。
 これまでは、旅行や出勤などで変化や刺激を得ることが出来たため、自宅は安心や安全を享受する場としての役割を担っていればよかった。しかし、外出が制限されたことで、自宅が変化や刺激を与える機能も果たす必要が出てきた。また、自宅での時間が増えることで、自分の行動スタイルや嗜好に合わせて、住環境を見直したいというニーズも増えている。

 以前から、「ミニマリスト」や「断捨離」と呼ばれる、住環境を見直す動きはあった。これらは、自分にとって必要なモノだけを所有することを重視する考え方である。
 物質的に貧しかった時代は、モノを所有することがステータスであり価値があるとされていたが、物質的に豊かな現在は、モノを所有することよりも、それらでどのような体験をするのかの方が重視される傾向がある。

 近年、急速に増えている各種の「アズ・ア・サービス」は、こういった考え方の変化の象徴的な例である。生活の中での実例を見てみよう。

 朝はストリーミングサービスの音楽で目覚める。野菜サラダを食べながら、昨夜放送されていたテレビ番組をオンデマンド配信で視聴する。野菜ボックスを定期購入するようになってから、野菜を食べる意識がついて体調も良い。
 仕事用の洋服は毎月コーディネートされたものを送ってもらうので、組み合わせを考える手間はない。バッグもレンタル品だ。憧れのブランドバッグを気分で持ち替えることができるので飽きがこないし、お財布にも優しい。
 通勤にはもっぱらシェアサイクルを使っている。乗りたい場所で借りて、目的地付近で返すだけなので、手軽だしちょっとした運動にもなる。最近は出社の機会が減ったので、シェアオフィスを利用している。その日の気分や予定で働く場所を選べるので効率が上がった気がする。
 夜は、近くのお店でテイクアウトした食事を食べながら、動画配信サービスで気になっていた映画を観るつもりだ。気になっていた家具のレンタルサービスも検討したい。仕事や住む場所など、これからのライフスタイルが不透明な状態で大型の家具を買うのは気が引けるので、レンタルで良いものが使えるのはありがたい。

 このように、モノを所有しなくても、サービスを利用することで便利で快適な暮らしを送ることができる。モノを所有することによる満足感・安心感を得ることはできないが、生活において必要な体験は享受できている。
 また、「アズ・ア・サービス」を活用した生活は、(収納スペースや駐車場の確保のように)物理的な制約が減るため、ライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるという利点もある。転職や副業などをする人が増え、時間の使い方も様々になっている昨今の状況には、このような柔軟性が合致している。

 今後、より多くのサービスが誕生し、個人は自分の生活をより最適化できるようになる。ただし、どんなサービスであってもそれを選択し、利用するのは個人である。
 そのため、「どのような生活を送りたいか」「自分にとって大切なことは何か」などといった各自の価値観を自分自身で認識しておくことがまずは重要となる。その上で、「○○をもつことがあたりまえ」といった所有が前提のこれまでの価値観を見直してみてはどうか。「アズ・ア・サービス」の活用で、生活の可能性は格段に広がるはずだ。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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