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JRIレビュー Vol.7,No.91

平成の市町村合併の検証を試みるー市町村の能力強化・効率化は実現されたのか

2021年05月12日 立岡健二郎


1999年から2010年にかけて実施された平成の市町村合併(以下、「平成の大合併」)から10年以上が経過した。この間、社会経済情勢は大きく変化し、人口減少と高齢化の進行など、市町村を取り巻く環境は厳しさを増している。市町村はこうした変化に対応できる組織になることが求められており、市町村合併はその選択肢の一つである。もっとも、平成の大合併に関しては、検証や評価が十分であるとは言い難い。そこで本稿では、平成の大合併の効果について検証を行う。

平成の大合併は、地方分権が一大ブームとなるなか、市町村を地方分権の受け皿とするという国会議員の強い意向のもとに始まり、それが国全体の取り組みへと拡大した。国は、市町村の行財政基盤の強化と行政の効率化を目的に、合併特例債や合併算定替をはじめとする各種支援策を講じ、総力をあげて合併を推進した。他方、同時期に地方交付税など地方の税財源の削減を実施した。

平成の大合併の結果、2,093の市町村が合併し588の団体が誕生した一方、1,139の市町村は存続した。合併の要因を分析すると、第1に、都道府県による関与が市町村の合併判断に大きく影響したこと、第2に、小規模市町村では、住民一人当たり職員数や人口が少ないほど、合併に至ったケースが多いことがわかった。さらに、とくに人口規模の小さい市町村については、財政の硬直性が高いほど、合併の可能性が高まるという結果となった。また、非合併市町村に対するアンケート調査から、人口規模の大小や行財政基盤の強弱とは無関係に、合併を望んでもそれが叶わなかった市町村が相当数あったことがわかった。

国の狙いの一つであった行財政基盤の強化について検証するため、一人当たり職員数、財政力指数、経常収支比率について、合併市町村と非合併市町村とを比較した。一人当たり職員数は、合併市町村の方が減少ペースが緩やかであり、専門職など逆に増えている職種もあった。行政基盤は相対的に強化されたといえる。財政力指数は、合併市町村の方が改善幅が大きい一方、経常収支比率は、公債費増加などの影響により、合併市町村の方が小幅ながら悪化した。財政の自立性が高まる一方、財政の弾力性は低下しており、財政基盤については強化されたとはいえない。

もう一つの国の狙い、行政の効率化について検証するため、市町村の一人当たり歳出額についてパネルデータ分析を実施した。既存研究と異なる最大の特長は、合併特例債や合併算定替が合併市町村の歳出増加の要因となった可能性があることを考慮し、それらの影響を取り除く形で分析を行った点である。

結果をみると、合併特例債により建設事業費や積立金をはじめ合併市町村の歳出は増えるものの、歳出抑制効果自体は確かに認められ、時間の経過とともに拡大することが示唆された。歳出増の影響を吸収できるまでの期間は、歳出総額に公債費を含まないケースでは、ネットで5年、累積で11年、公債費を含むケースでは、ネットで10年、累積で21年という試算結果になった。合併算定替の影響に関しては、歳出総額にむしろマイナスに効くという結果となった。

平成の大合併については、評価者の立場などによって評価の尺度や見方は大きく異なる。国の合併の進め方に対する批判も根強い。しかし、本稿における一連の分析に基づけば、少なくとも行財政基盤の強化、行政の効率化という観点からは、一定程度評価することができる。人口減少を所与とした時代における国・地方自治体の姿を模索するうえで、平成の大合併から得られた教訓が、有効に活用されることを期待したい。
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