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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.81

ASEAN諸国におけるフィンテックの進展状況-促進要因となるパンデミック対応とデジタル金融包摂政策

2021年05月12日 清水聡


近年のアジアの経済成長には、デジタル分野のイノベーションが大きな役割を果たしている。新型コロナウイルス感染症の大流行により、経済のデジタル化は加速する傾向にある。これは、フィンテックに関しても同様であり、人と人の接触の抑制が求められるなか、決済やサイバーセキュリティなどの分野を中心に拡大が促進されている。融資分野などを中心に、景気減速による短期的な負の影響がみられるものの、長期的には大幅に拡大することが期待されている。

フィンテックの発展は金融包摂と結びつけられており、「デジタル金融包摂」の促進が目標となっている。成人の銀行口座保有比率などでみた金融包摂の進展状況はASEAN諸国のなかで国ごとに多様であるが、銀行口座保有比率が100%に近いシンガポール以外では、政府自身が金融包摂の推進に積極的に取り組んでいる。金融包摂の進展は、経済成長の促進、所得格差の縮小、貧困削減に大きな効果をもたらすとされる。フィンテックは金融取引のコスト削減・効率化につながり、従来は金融取引から排除されていた消費者や中小企業が、デジタル決済やデジタル融資などの取引を通じて参加出来るようになる。

アジア太平洋諸国にはモバイルフォンなどのモバイルサービスが浸透しており、2025年には契約者数が30億人余り(人口の70%)になるとされる。ASEAN諸国では、デジタルに抵抗の少ない若年層が消費をけん引していることなどを背景に、モバイル金融サービスが金融包摂を促進することが期待される。各国当局は、デジタル決済の拡大を推進している。政府主導のリテール決済システムの構築、QRコードの統一、小売店等のエージェント・ネットワークによる金融サービスの提供、デジタルバンクの拡大に向けた取り組みなど、多様な政策を組み合わせて取り組んでおり、こうした良好な環境の下で、フィンテック企業などによるデジタル決済サービスの提供が加速することとなろう。

ASEAN諸国では、情報の非対称性などの問題から、中小零細企業が銀行借り入れを受けることは必ずしも容易ではない。この点に関し、オンライン上のプラットフォームを介して実施されるP2P融資の活用が期待される。各国政府は、業者の免許制などの規制構築を行い、プラットフォームの増加などに努めている。その成果はシンガポール・インドネシア・マレーシアなどで表れているが、その規模は非常に小さく、他の国も含めて拡大の努力を続けることが求められる。

このように、デジタル金融包摂は重要な経済政策となり、活発な取り組みが行われている。これには所得・年齢などによるデジタル格差、サイバーリスク、本人確認、プライバシーなど、多くの問題も伴うことから、これらの点に十分留意しつつ、積極的に推進していくべきであろう。
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