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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.81

コロナ禍後も続くタイ経済・政治の苦境

2021年05月12日 熊谷章太郎


コロナ禍の発生以降、タイは経済・政治両面で苦境が続いている。国民融和に向けた憲法改正の審議が開始され、新型コロナのワクチン接種も始まるなど、足元で明るい材料が出ているが、以下を踏まえると今後も険しい道のりが続くと見込まれる。

まず、政治面についてみると、政府は抜本的な選挙制度改革や王室改革に消極的であり、現在審議が進められている憲法改正案で国民融和が実現する可能性は低い。加えて、経済格差(所得・資産格差、地域間・産業間の生産性格差)や汚職問題といった、2000年代以降続いている政治対立の火種も解消されていない。そのため、憲法改正の行方や政権交代の有無にかかわらず、政治が不安定化するリスクは残存する.

次に、経済面についてみると、政治不安定化に伴う景気下振れリスクに加え、コロナ禍で深刻化した、家計債務問題、デフレ問題、少子化問題などが中長期的に経済成長を下押しし続ける。適切な政策対応を怠れば、コロナ禍後の景気回復ペースは緩慢かつ一時的なものにとどまることになる。

こうしたなか、タイ政府は持続的な経済成長に向けて、「タイランド4.0」や「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済」をキャッチフレーズとする産業高度化政策を推進している。同政策の成否は海外からの投資に依存するが、他のアジア新興国の産業集積やビジネス環境の改善などを背景に、アジア新興国におけるタイの投資先としての優位性は低下しつつある。また、ロボット工学、生物工学、情報工学など、イノベーションの創出を通じた産業高度化に不可欠な分野の人材不足といった問題も解消されていない。知識集約型産業への移行が順調に進まない結果、「中所得国の罠」から抜け出せない可能性がある。

以上を踏まえると、コロナ禍後の在タイ日系企業の事業環境は楽観出来ない。日系企業は、①高齢化の進展や環境志向の高まりなどを見据えたタイ国内でのビジネスモデルの見直し、②タイから他のアジア新興国への事業展開、などを通じて事業基盤を強化する必要がある。また、産業人材の不足問題の解消に向けて、日タイ間の産学官民連携の拡充を図っていくことも不可欠である。コロナ禍で広がるオンライン教育・研修を活用し、産業人材の育成支援規模の拡大を検討する必要があろう。
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