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EV化による乗用車市場の二極化

2021年04月27日 程塚正史


 昨年末ごろから、日本でも自動車の電動化の動きが加速している。政府が、欧州諸国ほどではないものの明確な定量目標を掲げたり、大手自動車メーカーが日本市場に向けたEVを発表したりしている。さらには出光興産や佐川急便といった新たなプレイヤーが独自の小型EV開発を公表し始めた。世界の主要市場の中でも日本は特に電動化の進みは遅いのが現状だが、2020年代を通じて否が応でもEV普及が進むと見込まれる。

 さて、自動車が電動化するということは、ガソリン車がEVに単にそのまま置き換わるというだけではない。端的に言えば市場の二極化が進む可能性がある。プレミアム領域と低価格領域の裾野が広がるというイメージだ。2020年のグローバルでの車種別のEV販売ランキング1位と2位は、その象徴といえる。

 1位はプレミアム領域の象徴で、テスラ「モデル3」だ。販売価格は400万円以上(日本では426万円)で、昨年は世界で36万台以上を売り上げた。「モデル3」だけでなくテスラは、自動車を通じた体験全体のデザインを重視している。そのため車内空間には様々な工夫が施され、大型ディスプレーや20個以上のスピーカーを搭載したオーディオシステムが搭載されている。それらのハードウェアの上で、NetflixやYouTubeなどの動画をダウンロードできたり、様々な言語でのカラオケが楽しめたりするソフトウェア面での仕掛けがある。

 このようなソフトウェア面の高度化には、駆動系の電動化が影響している。テスラ自身がその動きを牽引しているように、ECU(電子制御コンピューター)の統合あるいは少数化により、駆動系システムと情報系システムの連携が容易になるとともに、情報系システムのアウトプットデバイスであるディスプレーやオーディオなどの機器の統合制御が可能になるからだ。

 そのため自動車の電動化は、車載機器の高度化やその機器で動作するコンテンツの多様化と結び付きやすい。思い切って言えば、車内空間が無限に進化する可能性を秘めている。販売台数1位の「モデル3」はその象徴で、4位の同じくテスラ「モデルY」、8位のアウディ「e-Tron」も同様の位置づけとなる。11位以下となるが、メルセデスやBMWのEVでもユーザーインターフェースの進化が著しい。プレミアム領域のEVは、駆動系が電動化するだけでなく、車内空間の高度化によってさらにプレミアム化が進むと考えられる。

 一方、2位は上汽通用五菱の「宏光MINI EV」で、これは低価格領域の象徴だ。ベースモデルは日本円で50万円を切る低価格で、昨年7月の販売開始以来12月末までの半年未満で、12万台近くを売り上げた。年後半の単月基準では「モデル3」を上回った。中国では、地方都市の若年層が主なターゲットとなっている。

 これまで中国市場に注目し続けてきた筆者としては、「宏光MINI EV」の爆発的なヒットは、「ついに来たか」という感想だ。というのは、中国市場では無名のメーカーによる低価格EVは、実は以前から多数あった。さらに言えば乗用車カテゴリに入らない小型の四輪車や三輪車も多い。これらのメーカーは販路を持たないため販売ランキングでは上位に入ってこない。そのため中国市場でのランキングでは常に「その他」の数字が大きくなっており、例えば2020年、11位以下のメーカーによるEV販売比率は24.1%で、主要メーカーだけで構成される日米欧の市場とは大きく異なる。

 「宏光MINI EV」などが大幅な低価格で生産できる理由はまだ不明な点が多い。漏れ聞こえてくる話では、航続距離を絞り電池の容量を小さくするのはもちろんだが、モーターなど主要部品に自動車以外の汎用品を転用する動きがあるようだ。いずれにせよ50万円以下という低価格のEVは実現しており、それが少なくとも中国の地方都市等で受け入れられているのは事実だ。今後、低価格領域のEVは、汎用品の組合せによってさらに低価格化が進むと考えられる。

 以上のように、日本では自動車の電動化自体がまだこれからという状況だが、すでに多くの試行錯誤が進むグローバル市場を見れば、電動化によって市場の二極化が進みつつある。新規参入の機会も生まれるだろうし、新たな市場が出現する可能性もある。日本総研としては、そのような機会や可能性をいち早く見いだし、各方面の機関や企業の皆様と協力して市場開拓の一翼を担っていきたい。


 ※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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