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早まる「サクラサク」に想うこと

2021年04月14日 新美陽大


 今年も桜の季節がやってきた。本稿が掲載されるころには、桜前線がちょうど北海道に達する時期だろうか。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、私たちの社会や生活は大きく様変わりしたが、桜の花は今年も変わらず私たちの目を楽しませてくれる。そのことに、ほっと安らぎを覚えるのは筆者だけではないはずだ。

 ところで最近、桜の花が見られる時期が、年々早まっていると感じることはないだろうか。例えば、以前は3月末ごろに開花し始めた桜が、4月の入園式や入学式あるいは入社式に合わせて満開となる光景をよく目にした。ところが今年(2021年)、東京における桜(ソメイヨシノ)の開花日は3月14日と観測史上最も早く、満開日となった3月22日も観測史上2位タイとなる記録だった。今年の桜は入園式や入学式ではなく、卒園式や卒業式を彩る花となったのだ。

 さらに、このような現象は今年に限ったことではない。気象庁公開データを筆者が分析したところ、もちろん年々の変動はあるものの、東京では少なくとも1990年代以降の傾向としては、桜の開花日・満開日ともに早くなる一方だった。そのスピードは、開花日・満開日とも3~4年ごとに1日ずつ早まる傾向だ。すなわち桜の花は、1980年代以前は確かに3月末に開花し4月上旬に満開を迎えていたが、現在では3月中に開花および満開を終えるようになった。桜がこのように生態を変化させつつあることが、データからも確認できる。

 では、桜の生態変化の原因はなにか。桜も他の植物と同じく、自然環境の変化に敏感に反応することが知られている。様々な調査研究の結果、桜が開花に至るメカニズムには気温の影響が大きいとされている。もちろん、桜の生態変化の原因を、温室効果ガスの過剰排出による地球温暖化の影響と断言するのは、いささか性急に過ぎる面はある。特に、東京のような都市部の気温変化には、都市化によるヒートアイランド現象も少なからず影響を与えているからだ。しかし、東京以外の観測地点を見ても、地域差はあるものの開花日および満開日が早まる傾向は共通している点に注目したい。すなわち原因を一つに断定するのは難しいが、複数の要因によると見られる平均気温上昇という現象が現れているのは確かで、それが桜の生態変化をもたらしていると言うことができよう。

 最近、様々な場面で「気候変動」という言葉を耳にすることが多くなった。気候変動の原因となっている地球温暖化、そしてそれをもたらす温室効果ガスの削減、いわゆる「脱炭素」に国際社会が足並みを揃えて取り組むことは重要だ。他方で、社会や生活に実際に生じている影響、あるいは今後生じ得る影響を直視して、あらかじめ備えを講じておくことも、私たちの暮らしを守るために必要不可欠だ。桜の生態変化は、私たちの暮らしに直接的な被害を与えることはないものの、気候変動による影響は気づかないうちに生じること、そして影響が現れたときにはすでに手遅れとなり得ることを、私たちに教えてくれているのかもしれない。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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