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介護現場における効果的な職場体験、インターンシップの実施に関する調査研究事業

2021年04月12日 福田隆士大内亘、二宮拓太


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の背景・目的
 地域包括ケアシステムを構築していく上で、人的資源の課題が大きくなっている。厚生労働省が実施した介護人材の需給推計では、2025年には自然体推計で約55万人の介護人材の需給ギャップが生じることが見込まれている。
 さらに、医療・介護の役割分担の変化をはじめ、後期高齢者の増加(特に85歳以上の増加)、認知症高齢者の増加、独居高齢者の増加など、さまざまな環境変化が生じており、より多面的な取り組みがますます重要となると考えられる。そうした環境変化にも対応する形で、介護人材確保に向けて、生産性向上、外国人人材の活用、ICT・ロボット活用、機能分化・役割分担の見直し推進など、介護人材の需要・供給両面からの多様な施策がこれまで検討・実施されている。
 それらの対策の効果もあり、介護人材は平成29年度時点で約186万人と着実に増加してきている。また、介護労働実態調査の結果から、介護職員の離職率は低下傾向にあり、これらも各種取り組みの成果と考えられる。
 しかし、現状、介護人材の有効求人倍率は、他産業と比較して非常に高い水準で推移している。特に近年は、好景気に伴う国内全般での人手不足もあって、介護人材の有効求人倍率はかなり高い水準にある。また、介護人材の需給動向は、地域によっても差が大きい。東京都、愛知県、岐阜県などは特に厳しい状況にあり(平成30年時点での有効求人倍率が5倍以上)、介護人材確保をさらに強く推し進めていくことが求められている。
 介護人材確保の基本的な取り組みの方向性としては、離職防止・定着促進、新規参入促進、流出後の再流入促進の3つである。地域医療介護総合確保基金における介護人材確保対策メニューとして、これらに対応した取り組みが示されており、都道府県では、基金を活用した介護人材確保のための取り組みが推進されている。
 基金を活用して実施できる施策の一つに、介護事業所での職場体験・インターンシップがある。職場体験・インターンシップは、介護に関する魅力を含め、職場の実情を体感できるものであり、介護職への理解促進、就業の促進、ミスマッチ防止の観点から、非常に重要な位置付けにあるといえる。
 職場体験・インターンシップの適切な実施は、業界の理解促進・魅力向上による新規参入促進に加え、離職防止・定着促進に効果があると考えられる。
 介護人材の離職理由としては、多くの調査において、「職場の人間関係」「結婚・出産・妊娠・育児といったライフイベント」「法人・事業所の理念・運営のあり方への不満」などが上位となっている。職場体験・インターンシップ実施によってミスマッチを防止することが、離職防止策の一つになり得ると考えられる。
 現場においては、福祉系の学生がインターンシップに参加したことで、介護業界での就業を断念したというケースも散見される。職場体験・インターンシップの実施に際しては、単に実施するだけではなく、実施内容・実施方法を検討・整理すること、また、職場体験・インターンシップを実施する対象先を適切に選択することも重要になると考えられる。
 介護の魅力の発信および各事業者・事業者の実態把握という目的を鑑みると、適切な受け入れ事業者・事業所の選定のほか、受け入れ事業所における効果的な介護の魅力、職場環境・雰囲気等の伝達を実現できる方策を検討していくことが期待される。

 介護現場における効果的かつ適切な職場体験・インターンシップを展開していくためには、以下の点について留意して検討を行うことが重要と考えられる。
①各地域・事業所等における職場体験等の実態を考慮すること
②参加者側のニーズ・期待感を考慮すること
③適切な現場を設定すること
④活用しやすい取りまとめを行うこと

 本事業では、以上の背景・課題認識を踏まえ、都道府県が基金を活用して職場体験等を推進していく際の参考となる検討を行い、報告書として取りまとめることを狙いとした。加えて、活用しやすい取りまとめに留意し、参考になると考えられる取り組み内容の紹介や実施上のポイントを整理した参考事例集の作成を行うこととした。

2.調査方法・進め方
 本事業では、以下の内容を実施した。

(1)検討委員会の設置・運営
 本事業を円滑かつ効果的なものとするため、介護人材確保等に精通した有識者や職場体験・インターンシップ実務に係る実務経験者等からなる検討委員会を設置・運営した。
 検討委員会では、調査研究の実施手法・進め方、各種検討における視点・要点、分析・検討の方向性、報告書や参考事例集等の取りまとめ等、以下の検討事項に関する内容について、検討、助言を得た。検討委員会は全4回開催した。

(2)事例調査
 都道府県における職場体験・インターンシップの取り組みについて、公開情報等から、実施状況や取り組み内容、先行調査研究等の調査、整理を行い、その結果を基に、以降のヒアリング調査・アンケート調査における対象の抽出、仮説の整理を行った。

(3)都道府県へのプレヒアリング
 事例調査、先行調査研究の調査・整理を踏まえ、職場体験・インターンシップについて先行的に取り組んでいると考えられる都道府県に対して、取り組み内容に関するヒアリングを実施した。ヒアリングの結果は、報告書・参考事例集の取りまとめに活用するとともに、アンケート調査設計における仮説設定に活用した。

(4)都道府県に対するアンケートの実施
 職場体験・インターンシップに係る取り組みの実態、課題認識等の把握を目的に全国都道府県に対するアンケート調査を実施した。
 アンケート調査においては、事前調査、プレヒアリング等を基に調査設計を行い、都道府県に調査票を直接配布、電子メール回収にて実施し、全47都道府県から回収した。

(5)都道府県に対する追加ヒアリングの実施
 アンケート調査結果等を踏まえ、公開情報等で把握ができなかった、各種課題に関する取り組み事例を抽出し、追加でのヒアリングを実施した。取り組みの経緯、内容、その効果等の把握を目途として実施した。

(6)職場体験・インターンシップの効果的な実施に関する方向性の検討、整理
 アンケート調査、ヒアリング調査の結果等を踏まえ、職場体験・インターンシップの実施におけるポイント等について、検討委員会における検討等による方向性の検討、整理を実施した。

(7)報告書・参考事例集の取りまとめ
 各種調査、検討の結果について、報告書として取りまとめるとともに、都道府県の参考となるよう、検討・実施のポイントの解説および事例の紹介からなる参考事例集を作成した。

3.調査から得られた示唆
 アンケート調査およびヒアリング調査から得られた示唆は、以下のとおり。

(アンケート調査からの示唆)
●職場体験/インターンシップそれぞれの実施・検討状況を踏まえた取りまとめが必要
●PDCAサイクルおよび課題認識に沿った検討・実施プロセスを整理することが有効である可能性

 アンケート調査結果を踏まえて検討委員会での検討を行い、以下の内容について整理を行った。整理した内容は、報告書の取りまとめおよび事例集作成に活用した。
・職場体験・インターンシップの対象者像拡大の必要性
・福祉教育の重要性および学校へのアプローチのポイント
・施設が事業を円滑に実施するためのガイドラインやマニュアル整備の必要性
・段階別での課題と打ち手の整理の必要性
・他の人材確保策や既存制度との連携の必要性
・その他、有効と思われる施策等

(ヒアリング調査からの示唆)
●周知方法の工夫が必要
●事業所のレベルに応じたプログラム内容に関するサポートが重要
●事業参加後の継続的なアプローチが重要
●保護者・教職員側の理解醸成も必要

 これらの得られた示唆を基に、検討委員会での検討を実施し、事例集の取りまとめにおけるポイントとして整理した。

4.調査・検討結果のまとめ
 調査・検討を踏まえて整理した、職場体験・インターンシップにおける現状の課題、取り組みの方向性、今後さらに検討すべき課題は以下のとおり。

<現状の課題>

①職場体験・インターンシップの定義の曖昧さ
 アンケート調査結果から、職場体験・インターンシップに共通して、目的・対象者を絞らない「全方位型」の事業となっている都道府県が多いことが分かった。一方で、一部の都道府県では目的・対象者をある程度限定している「特化型」の事業も見られる。このことから、職場体験・インターンシップの定義については確立されたものがなく、各都道府県において目的・対象者を独自に設定している状況が推察される。
 参加者募集等の段階では、全方向的に対象者を意識し、門戸を広げることは重要である。しかし、個々の参加に向けた関心を高める上では、そのようなアプローチではターゲットが不明瞭になり訴求力が弱くなるため、結果的にあまり効果的でなくなることが考えられる。本来的には、対象者を明確に意識し、個々のニーズを踏まえた上で、周知・募集方法や発信コンテンツ、提供プログラム内容等を検討することが有効である。アンケート調査においては、参加者数の伸び悩みに関する課題も多く聞かれたが、参加者数を増やしていくにあたり、まずは、各都道府県において職場体験・インターンシップの定義を明確にすることが出発点となると考えられる。

②対象者別のアプローチ、事業のプロモーション
 参加者の伸び悩みを課題に挙げる都道府県は多いが、その要因の1つとして募集段階における訴求力の弱さが考えられる。一部の都道府県では、SNSにおけるプロモーションやインターネットを通じた募集等の工夫が見られる。しかし、対象者別や年代別の最適な発信チャネルや発信コンテンツという点については、現在のところ、あまり意識されていないことが明らかになった。
 前述のとおり、本来は、対象者を明確にした上で、募集方法やプロモーション方法を検討する必要があるため、学生や中途入職者を包括的に対象者として捉えてしまうと、どうしても訴求力が弱まってしまうと考えられる。
 しかし、一部の自治体においては、実施内容は同じでも対象者を学生と中途入職者で分ける形で、学生に対してはインターンシップ、中途入職者に対しては職場体験を実施することで、対象者を明確に切り分けているケースも見られる。
 このように、職場体験・インターンシップの違いを明確に整理することで、より効果的な募集やプロモーションにつなげていける可能性があると考えられる。

③教育関係機関等との連携
 アンケート調査結果からは、学校等における案内の不足に加えて、その案内の効果が不明瞭であるとする課題感が見られる。また、学校を通じた募集のボトルネックとして、教職員や保護者等における介護業界・介護職に対するマイナスイメージの定着や福祉職に対する理解不足を挙げる声が多い。教職員・保護者等は、参加者、特に小中学生等の年代層の子どもの意思決定に関与することが多いステークホルダーと考えられる。そのため、学生に対してアプローチする際には、周りの大人たちも介護業界・介護職についてまずは正しく理解してもらい、イメージアップを図ることが重要と考えられる。
 また、一部の都道府県においては、組織的な連携がうまくいっていない状況も聞かれる。より円滑かつ効果的な連携を図っていくにあたっては、教育関係機関の事情・動向や年間スケジュール等を考慮した上で、学校等を単に参加者募集のための媒介と捉えるのではなく、パートナーとして事業を推進していける体制づくりを検討することも重要となる。

<今後の取り組み上のポイント>
 以上の課題に対応し、効果的な取り組みを行っていくためのポイントとしては、以下が挙げられる。参考事例集はこれらのポイントを踏まえ、取りまとめを行っている。
(基本方針の検討におけるポイント)
●事業実施のプロセスの意識(PDCAサイクル)
●人材確保計画に基づく必要確保数の確認および目標値の設定
●介護人材施策全体における職場体験・インターンシップの位置付けの確認・整理
●対象者のニーズの把握
(事業の実施におけるポイント)
●事業の効果の測定
●対象者別のアプローチ方法、事業のプロモーション方法
●受け入れ体制の整備
●他の介護人材施策との連携
●教育関係機関等との連携
●事前・事後のフォロー

<さらに検討を要する課題>
 今後、より効果的な職場体験・インターンシップの実施に向けた検討を進める上では、以下の課題についてより詳細に検討することが必要と考える。
●事業所側や参加者側におけるニーズの把握および事業推進体制の強化
●対象者別・ニーズ別のアプローチ
●対象者像に係る認識の変革
●職場体験・インターンシップとその他の介護人材施策との有機的な連携のあり方の検討

 以上の検討結果を踏まえて、職場体験・インターンシップの検討、実施に参考となるよう事例集の取りまとめを行った。今後の検討における参考資料として参照いただきたい。


※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】
【事例集】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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