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JRIレビュー Vol.5,No.89

東日本大震災被災地における産業復興の現状と課題―自律的な経済成長に向けて

2021年04月19日 星貴子


東日本大震災から10年が経過した。国は、復興に着手した当初から2020年度末を一つの区切りとし、単なる原状回復ではなく、基幹産業の基盤強化や新産業の創出など、従来の生産性の低い産業構造を払しょくし、被災地の自律的で持続的な成長を目指してきた。確かに、県内総生産や鉱工業生産指数などのマクロ経済指標は震災前の水準を回復し、6次産業化の進展や自動車関連産業の集積など、一部に明るい兆しもみられ始めた。

しかしながら、いまだに事業を再開しても売り上げが低迷し経営難に陥る事業者や倒産に追い込まれる事業者が存在する。また、産業の集積や研究開発拠点の創設によって期待された生産性の向上、産業の高度化、新たな産業の創出等の効果は、いまだ限定的である。現況は復旧・復興関連事業に支えられた側面が強く、大局的には震災前の状態に戻ったにすぎず、持続的な成長に必要な経済基盤が構築されている状況にはない。

国は、2021年度からの5年間を第2復興・創生期間とし、回復が遅れている岩手県と宮城県の沿岸部や福島県の復興支援に重点を置く方針を示した。もっとも、資金繰り支援に重点を置いたこれまでのような取り組み方では、被災事業者が震災前の経営水準を回復できても、事業を継続し、自力で成長を持続させることは容易ではない。むしろ萌芽がみられる既存基幹産業の高度化や成長分野における新基幹産業の創出が停滞する恐れがある。

被災地経済の自律的で持続的な成長を実現するには、復興支援という枠組みから一歩踏み込んで、経済成長戦略に舵を切り、地元企業、地域産業を成長分野にシフトさせるとともに、同分野を支える基盤を積極的に強化・育成するといったことが求められる。具体的な方策としては、①既存基幹産業の成長や新たな基幹産業の創出の基盤となるエコシステム形成の推進、②ICTを活用したDXや経営改善等に関する専門人材の確保と先端技術やスキルを要する人材の養成、③優遇措置等のインセンティブの拡充によるDXやカーボンニュートラルなど次世代に向けた投資の促進が考えられる。

いまだ回復軌道に乗ることができない事業者や地域が存在するなか、これまでの復興対策を総括し、改めて目標未達の要因、欠如していた取り組みを十分に精査することは重要である。しかし、被災地経済、ひいてはわが国経済の再生、持続的成長につなげるためには、“復興”から一歩前進し、経済成長促進、成長戦略に軸足をシフトさせることが求められる。この10年を一つの節目に、被災地経済が、復旧・復興から脱却し、次世代に向け自律的で持続的な成長軌道をたどることを期待したい。
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