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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】全人代後の動きから見えて来た中国外交の課題

2021年03月26日 副理事長 高橋邦夫


3月5日に開幕した今年の全国人民代表大会(全人代)は例年よりも会期を短くして、3月11日に閉幕した。その間、初日に李克強首相による「政府活動報告」の発表があり、7日には王毅・国務委員兼外交部長による外交・対外関係に関する内外記者会見が開催され、更には全人代閉幕直後の11日午後には李克強首相による内外記者会見が、例年同様に行われた。全人代最終日には、西側が懸念を示していた香港における選挙制度を変更する決定もなされた。一方、「第14次5カ年計画」と2035年までの長期ビジョンを記した「ビジョン2035」それぞれの初年に当たる今年の全人代では、経済面でも様々な議論が見られた。

その1週間後には、今度は舞台をアラスカに移して、米中両国の外交担当トップが渡り合った。更に、その直後には、中国南部の景勝地・桂林で、中露外相会談が行われた。

本稿では、これら全人代及びその後の中国の動きを通して伺える今年の中国外交の方向・課題を考えて見たい。

1.全人代における「安全運転」の希望と現実

(1)全人代に関して、日本のメデイア報道の中には、「米国との対決姿勢」あるいは「香港の選挙制度変更で、民主派締め出し」などの文字が見出しで踊ったものもあったが、香港について選挙制度を変更した点を除けば、今年の全人代全体のトーンは、長年中国情勢を見てきた者からすると、どちらかと言えば、「抑え気味」あるいは「安全運転」に軸足を置いた感じであった。因みに、アラスカでの協議についても、中国側が発表したすべての文書を読めば、後述するように決して「対決一辺倒」でなかったことがわかる。

(2)全人代で発表された「政府活動報告」で、そうしたことが端的に表れたのは、2021年の経済成長目標を「6%以上」にしたことである。2020年第4四半期(10月~12月期)の経済成長率が6.5%であったこと、1月にIMFが発表した今年の中国の経済成長率見込みが8.1%であること等を考えれば、もう少し高い目標設定をしてもおかしくないとも考えられるが、「今年、わが国の発展は依然として少なからぬリスク・課題に直面している」との李克強首相の発言にある通り、今後も多くの不確定要素があることから、今年7月の中国共産党創建100周年を迎え、その後には来年秋の第20回中国共産党大会までの長い「政治の季節」が待ち構えており、一説には3期目を目指す習近平総書記にとっては、これからの約1年半は党内の不満・不平勢力の声が大きくならないよう、細心の注意を払って無難に乗り切ることが必要な時期に当たる。

更に、皮肉な見方をすれば、香港に対する強硬姿勢も、9月の立法会選挙、更には来年の行政長官選挙で、中国にとり予想外の事態が生じないようにするための必要な措置である、と中国は考えているのかもしれない。

(3)同じことは、対外関係についても言え、最大の懸案である対米関係について、王毅・国務委員兼外交部長の外交に関する内外記者会見、あるいは李克強首相の全人代閉幕後の内外記者会見では、中国の核心的利益は守る、あるいはあくまで平等の関係であるべき等と言いつつも、米国と良好な関係を築いて行きたいとのトーンが基調になっている。

アラスカでの協議では、双方が冒頭、テレビカメラの前で激しくやり合ったことは確かではあるが、その協議全体の結果を、中国の専門家達は一様に、積極的に評価をしている。それが、中国当局の認識、ないしはそう対外的に発表することが、中国にとってプラスであると考えているのであろう。こうした全体のトーンを踏まえつつ、以下、個々の問題・関係に対する中国の方針を推測していこう。

2.対米関係—対立と協力の混在?

<全人代での議論>

(1)現在の中国の対外関係において、米国との関係を如何にマネージしていくかが最大の課題であることは、誰も否定しないであろう。トランプ前政権が米国に輸出される中国製品に課した制裁関税には今のところ変更はなく、香港問題で課した各種の制裁措置も引き続き続いている。そうした中、中国当局は、バイデン新政権は前政権とは異なり、是々非々の対応、即ち対立する面はあろうが、同時に協力できる面(例えばとして、「気候変動問題」がしばしば取り上げられてきた)もある、と期待も込めて見ているものと思われる。

(2)そうした中国の考え方は、全人代での「政府活動報告」、また李克強首相や王毅・国務委員兼外交部長による内外記者会見での発言でも見て取れる。まず、「政府活動報告」では、唯一特定の外国名を上げたのは、「相互尊重の基礎の上に、中米の平等で互いに利益となる経済貿易関係を前に向かって発展させる」と対外経済関係を述べた部分であった。また、王毅・国務委員兼外交部長も、3月7日に行われた内外記者会見で、「2つの異なる社会制度の国家として、中米間に相違点や矛盾があることは避けられない」と言いつつ、続けて「鍵となるのは、率直なコミュニケーションを通じて有効に(相違点や矛盾を)管理・コントロールして、戦略的な誤った判断を防ぎ、衝突・対抗を避けることである」と述べている。こうしたトーンは、全人代閉幕直後に行われた李克強首相の内外記者会見でも貫かれており、同首相は「我々は、双方が習近平主席が最近バイデン大統領と行った電話会談の精神に照らして、互いの核心的利益と重大な関心を尊重し、互いに内政や内部のことに干渉せず、衝突せず・対抗せず、相互尊重、協力・ウィンウィンの原則に則り、両国関係を健全で安定的な方向に発展させていくことを希望する」と述べている。

(3)こうした良好な対米関係を期待する一方、中国は、現実問題として起きており、また今後も続くものと考えられる米国との経済貿易・台湾・香港・新疆・南シナ海などの問題を巡る軋轢を十分に認識しており、またそれへの備えを固めようとしている。「政府活動報告」では、随所に米国によるハイテク分野などでの「デカップリング」を意識して、「生産・分配・流通・消費の各部門で、国民経済の良好な循環を構築する」、「発展と安全を統一し、国家経済の安全保障を強化し、食糧・エネルギー資源・金融の安全戦略を実施する」、「産業チェーン・サプライチェーンを向上させ、安定させる」などと述べられている。

<米中協議>

(1)「全人代」での議論が終了した3月11日、中国と米国の外交担当のトップである楊潔篪・政治局委員及び王毅・国務委員兼外交部長と、ブリンケン国務長官とサリバン安全保障担当大統領補佐官が1週間後の3月18日・19日に米国アラスカ州アンカレッジで会談することが発表され、バイデン政権発足後、米中双方の対面による直接接触の結果に注目が集まった。

こうして行われることになった米中協議については、開催前から中国側の思惑をうかがわせることが起きた。それは、米側は単に「米中協議」と呼称したのに対し、中国側はこの協議を「中米ハイレベル戦略対話(中国語では「中美高層戦略対話」)」と呼んで発表したことである。これについて、香港紙は、この協議を1回限りのものに終わらせず、米国との対話メカニズムにしたいとの中国側の希望の表われ、と解説した。…

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