オピニオン
少子化と未婚① ~2020年の婚姻件数とコロナ禍に求められる出会い~
2021年03月24日 今川成樹
わが国では長らく少子化が進行しているが、これまでこの進行を食い止めるため、婚活~結婚~出産~子育てと一連の流れを通じて切れ目ない取り組みが国・自治体・民間企業一体となって行われてきた。しかしながら、2019年には過去最少の出生数を記録する(「86万ショック」)など、その進行を食い止めるまでには至っていない。そうした中、政府は2020年に新たな少子化社会対策大綱を策定し、具体的な合計特殊出生率の目標とそれを実現する具体的な道筋を示しており、今後より一層の少子化対策の取り組みが進められていくことが予想される。一方で、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変化は少子化に関しても大きな影響を与えてくることが予想され、この影響を踏まえた実態の把握が重要となる。本シリーズでは、少子化やその中でも未婚部分を中心とした情報の整理・発信をすることで、より多くの人が現状と今後について考えるきっかけを提供することを目的としている。
第1回目は、先日2021年2月に公表された2020年12月までの人口動態統計(速報)を元に婚姻件数の動向を整理する。婚姻件数のデータは、少子化に関連する公的統計の中でもコロナウイルス感染症の影響が早期に出るデータであることから注目されており、今回はこのデータからコロナ禍およびその後のニューノーマルを見据えた出会いや結婚についての考えを取りまとめる。
まず、人口動態統計(全国:速報)の過去10年間の婚姻件数と前年比の推移について、図1と図2にそれぞれ示す。2011~2018年は平均-1.6%の前年比で減少を続けていたが、2019年に令和婚のブームがあり、2.1%の改善が見られた。今回公表された2020年は、前年比-12.7%と急激な減少が生じていることが分かる。2019年の上昇の影響もあり、その減少が大きく見えるため、2018年からは2011~2018年の平均減少率と同じ水準で減少とした数値との比較を行う。2018年が602,735件であり、これに1.6%の減少が2年分となるため、計算すると583,602件となる。つまり、過去からの減少傾向以外の要因で10%程度の大きな減少が生じていると言える。その主な要因として挙げられるのがコロナウイルスによる出会いの数の減少や、結婚の先延ばしである。後者の要因についてはその影響の度合いを測る適切な指標がないため、今回は厚生労働省の出生動向基本調査のデータを用いて、前者の影響のみについて確認・考察する。
図3に2005年、2010年、2015年の3調査における交際期間別の結婚数割合を示す(全交際期間ベース)。いずれの調査においても半年以内での結婚は少ないが、半年以降急激に増加し、交際期間のボリュームゾーンは0.5~2.5年となっていることが分かる。今回の2020年の婚姻数でいうと、コロナウイルスの影響による外出自粛の開始時期は地域によって異なるが、2020年2~3月からその影響が出ていると考えられる。つまり、図3に記載する6~11月の成分まで影響が出ていると想定され、0~11月の合計割合である12.1%(2015年データ)に強く影響が出ていると考えられる。もちろん、出会いのオンライン化が急速に進んでいることもあり、出会ってから1年以内に結婚している件数のみが全体の10%程度の減少の要因の全てとは考えづらいが、その減少に大きな影響を与えているのではないかと考えられる。
以上の状況を踏まえ、考えなければならないのが、今後の見通しと改善に向けた対処である。まず、今後の見通しに関してコロナウイルスの収束時期はともかく、①収束までに一定期間を要することが見込まれること、②アフターコロナにおいて婚姻数や出会いの数が回復しない可能性もあることの2点が大きな懸念事項として挙げられる。①に関しては、前述の通り、交際期間別婚姻数のボリュームゾーンは0.5~2.5年であることから、収束までの期間が長引けばその影響が大きくなり、より一層の婚姻数減少が生じる可能性がある。また、②については見通しを立てづらい部分ではあるが、一定の外出自粛慣れ(出会いの場への参加意欲の減少やオンライン思考)が生じることが予想される。筆者はこれらの対処としてこれまで行ってきた婚活のオンライン化の現状把握やそれを踏まえたスピーディーなPDCAサイクルの実現が重要と考える。従来、婚活は対面が重視され、オンラインには不向きと考えられてきた。もちろんオンラインデーティングシステムは数多く存在しているが、結婚に力点を置いておらず、あくまで出会いの創出が目的であった。そういったことから、オンライン化による影響を把握できず適切な施策を誰もが打ちづらい状況にある。また、前述の通り出会いの数の減少に紐づく婚姻数の減少は差し迫っていることから、効果が不透明な施策の展開に時間をかけてしまい、婚姻数減少に一層大きな影響が出てしまうリスクが高いと予想されるため、スピーディーなPDCAサイクルの実現が求められる。
コロナウイルスの影響は直近の感染者数の増減に注目が集まりがちではあるが、少子化問題にもさらに大きな影響を与えかねない状況を迎えつつある可能性を示した。こういった状況を打破すべく、現状を加味した施策を展開すべく、官民が一体となりデジタル・アナログの両面からデータを収集し、出会いやコミュニケーションについて向き合う必要がある。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク