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CSRを巡る動き: 2050年カーボンニュートラルに向けて求められる発想の転換

2021年04月01日 ESGリサーチセンター


 2020年10月、菅首相は2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを表明しました。すでに欧州をはじめとして、世界では120以上の国と地域が「2050年実質ゼロ」を掲げており、国際的な枠組みを議論する場ではカーボンニュートラルがスタンダードになりつつある中、日本もやっと、そうした国際的な議論のスタート台に立ったというところでしょう。

 とは言え、前政権が踏み込めなかった高い目標を掲げたことは評価すべきと考えます。新型コロナウィルス感染症拡大により世界的に経済活動が停滞し、世界のCO2排出量は昨年より減ることが見込まれていますが、その削減率は8%程度と言われています。経済活動を大幅に抑制してもCO2排出削減率が1割に満たなかった、という事実からも、2050年にカーボンニュートラルを実現することがいかに高い目標であるかが分かります。

 高い目標が掲げられたことを機に、各省庁を中心に具体的な施策の検討が加速しています。国の成長戦略会議では2020年12月、経済産業省を中心に各省庁が連携して策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が報告されました。この中で、2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップが示されています。2050年までの計画として、まずは「電力部門の脱炭素化」を大前提としたうえで、電力部門以外(需要側)の産業・運輸部門等において「電化」を促す(例:自動車の電動化等)ことが必要としています。また、産業部門では、水素還元製鉄などの製造プロセスの変革や、新たな燃料として水素やバイオ燃料、藻類燃料、アンモニア、メタネーションによるガス燃料等の技術を実用化する必要性も盛り込まれました。そして、各技術の社会実装を加速するため、水素産業、EV・蓄電池産業、燃料アンモニア産業、洋上風力産業、カーボンリサイクル産業等の14分野を成長分野とし、現状と課題を踏まえ、今後必要な取り組みを示した「実行計画」が策定されました。「電力部門の脱炭素化」にあたっては、再稼働が難しい原子力発電とCO2回収とセットの火力発電を合わせた2050年の発電量の参考値を30~40%にしたという側面はあるものの、各技術の社会実装に向けて期限付きで具体的な方向性が示されたことには大きな意義があると言えます。

 企業にとっては、今後目指すべき技術革新の具体的な方向性が示されたことで、技術開発やイノベーションが加速することが期待されます。鉄鋼業などのエネルギー多消費産業からすれば、政府のカーボンニュートラル宣言により、事業活動に伴うCO2排出の大幅削減に向けて製造プロセスの変革が余儀なくされ、耳の痛い話かもしれません。一方で、グリーン成長戦略でも示されているような「水素還元製鉄」などが実現できれば、鉄鋼業界全体のCO2排出削減に大きなインパクトをもたらすと同時に、この技術を世界に向けて普及させることで新たなビジネスチャンスになるとも考えられます。政府は、成長分野のイノベーションを後押しするためのグリーンイノベーション基金(2兆円)の創設や、大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入等に対する税制支援を行う「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」を設けました。企業がイノベーションを加速させることで新たな収益源を生み出すことができれば、日本経済の活性化にもつながる可能性を秘めています。

 日本企業はこれまで、コツコツと省エネ等の取り組みを積み重ねることで、着実に目標を達成することを重視してきました。しかしそれだけでは「2050年実質ゼロ」という高い目標は達成し得ません。他方で、未来のあるべき姿を見据えたうえで、そこから遡って現在すべきことを考えていく「バックキャスティング」という発想があります。今後は、積み上げ型ではなくバックキャスティングで考え、大胆な投資によりイノベーションを加速させる。大きな発想の転換が求められているのではないでしょうか。


本記事問い合わせ:長谷 直子
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