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新型コロナ時代のBtoB営業・マーケティング変革~顧客接点のリアル・デジタルチャネルを再設計し、収益回復・拡大を加速させる~

2021年03月17日 中瀬健一


 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う2回目の緊急事態宣言が解除された地域も一部あるが、多くの企業はリモートワーク(在宅勤務)を継続的に推進している。また、顧客のリモートワークへ対応するために、非対面の営業活動、つまりオンライン対応へのシフトも進められている。
 BtoB企業においては、新型コロナウイルス感染症拡大の以前から、顧客の購買プロセスの変化の兆しは見えていた。見込み顧客の情報収集源が営業担当者からウェブサイトへ比重が移っていた。トライベック・ブランド戦略研究所「BtoBサイト調査2019」によれば、仕事上の製品・サービスの情報源としての順位は、1位「企業のウェブサイト」、2位「営業員・技術員の説明」、3位「カタログ・パンフレット」、4位「業界サイトや専門サイト」であった。「カタログ・パンフレット」についても、企業のウェブサイトから資料請求できることを考慮すると、ウェブサイト等のオンラインの重要性が高まっている。しかし、そのような顧客の購買プロセスの変化に早くから気付き、対応を進めていた企業は極めて限られていた。多くのBtoB企業は、マーケティングやアフターサポートの組織が十分整備されておらず、営業担当者が全方位でカバーしているのが実態である。
 顧客側は、今回の新型コロナウイルス感染症拡大を機に、取引先のウェブサイトからの情報提供の質の違い、また企業の取り組み姿勢の違いを認識し始めている。従来は、よく訪ねてくる営業担当者へ声をかけて、情報収集できる手軽さがあった。しかし、在宅勤務や対面での打ち合わせの制約によって、そのような手軽さは失われた。一方で、いくつかの企業ではウェブサイトから必要な情報を収集できる手軽さやスピードを実感できた。このように顧客側も、従来は面倒と思っていたウェブサイトからの情報収集も、やれば手軽にできるものと気付いたのである。今後も、顧客の初期段階のウェブサイトでの情報収集へのシフトは、より一層加速することが予想される。現状では、このような変化による現在の取引への影響は小さいかもしれないが、将来的に取引先の見直しが徐々に進み、顧客内での取引先シェアが大きく変わってしまう可能性も高い。つまり、営業の初期段階からのデジタル対応の取り組みを進めている企業にとっては大きな機会であるが、従来の対面重視の営業スタイルの企業にとっては大きな脅威である。今がまさしく、大きな転換期といっても過言ではない。

目前の課題「オンライン」へ移行したが 
 新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、従来のような対面での営業活動ができない状況下で、BtoB企業の多くが営業活動をオンラインへ移行していった。その中で、「オンライン商談への対応」「オンラインセミナーへの対応」の取り組みを進めたものの、問題が散見された。

「オンライン商談への対応」
 既存顧客からの継続案件については、ある程度オンライン商談で対応できたところも多いが、商談から受注に至るまでの案件の長期化が見られた。これは、顧客側の在宅勤務等によって顧客内の調整・手続きに時間を要したことも一因であるが、それに加えて、オンライン商談で顧客側へ提案内容が十分に伝わっていない、もしくは理解されていないことによって、打ち合わせ回数の増加や確認漏れ、認識違いなどによる手戻りが発生していることも要因に挙げられる。このようにオンライン商談では、従来のスキルに加えて、テキストを用いたコミュニケーション能力が営業担当者に求められることが浮き彫りになった。
 一方で、新規顧客や既存顧客の新規案件については、会えないことによって、営業担当者の新規案件の掘り起こしやニーズの吸い上げの活動が十分できず、商談まで至らないケースが多い。これは新規案件が減っていることもあるが、顧客内で部門間の情報共有機会が減っているために、顧客内の取引先紹介が進まないことが考えられる。これまでも従来型の営業担当が全方位的に顧客組織をカバーし、ニーズや案件を拾い集めるのは限界があった。今回のような会えない時代には新規案件の掘り起こしやニーズの吸い上げが増々困難になっており、ネットとリアルを駆使して組織的に対応できる体制整備が不可欠である。新型コロナウイルス感染症の収束後も、このような流れが継続する、もしくは加速すると考えるべきである。

「オンラインセミナーへの対応」
 集合形式のセミナーや展示会等のイベントについては、オンラインセミナー等へ対応できた企業と全く対応できなかった企業に分かれた。オンラインへ対応できた企業の中には、対面のセミナーやイベントよりも参加者が増えたというところもあった。一方で、オンラインセミナー等の開催後に見込み客へコンタクトし、商談まで至った案件は少ないという声も多い。オンラインセミナー等へ気軽に参加できるようになり参加者が増えたものの、情報収集段階の参加者(商談化の確度の低い見込み客)が多く、製品・サービスを具体的に検討している参加者(商談化の確度が高い見込み客)が少なかったためである。そのような実態にもかかわらず、オンラインセミナー等の企画部署は参加者(見込み顧客)の優劣をあまりつけずにいた。そのため、営業担当は、既存顧客に加えて確度の低い見込み顧客を大量に抱え、商談の前段階のアポイントさえも調整できず終わってしまうケースが多かった。このような状況が続くと、オンラインセミナー等の見込み顧客へのフォローは、営業担当の中で優先度が低い活動になり、ますます積極的にアプローチをしなくなるといった悪循環に陥っていく。
 このような「見込み顧客の育成・フォロー」の問題は、以前から存在していた。しかし、従来のリアル中心の営業活動では、営業担当が直接電話・訪問、もしくは顧客の他部署の担当者から訪問時に直接紹介してもらうなど、営業担当の努力でアポイントへ持ち込むまではできていた。しかし、現在では、そもそも直接訪問が難しく、電話もつながりにくい中で、リアルでの営業にいきなり持ち込むような手法はますます難しくなっている。これまでのように営業担当に丸投げで任せるだけでなく、デジタルも活用した見込み顧客のフォロー、また確度の低い見込み顧客をいかに育てていくかといった組織的な活動が必要不可欠である。特に、セミナーや展示会等のイベントを担うマーケティングや営業企画のような組織の役割が重要になるが、従来の縦割りの役割分担で仕事をすると、見込み顧客の育成まではマーケティングや営業企画の担当範囲外となりがちで、結局は何も改善が進まない。このような状態に陥らないためには、マーケティングから営業へ引き継ぐまでのプロセスと役割分担の再設計から始めるべきである。
 また、このような取り組みを進めていくと、システム分断の問題も並行して対応が必要となる。例えば、顧客情報管理システムなどのIT基盤も部署ごとに構築しデータ連携もできておらず、または顧客情報管理システムには必要最低限の情報しかなくエクセルで担当者が属人的に管理・対応していることも多い。そのため、そもそも組織をまたがって「顧客情報として何を管理すべきか」「それらを一貫して管理・共有できる環境はどうあるべきか」といった点から検討しなければならない。
 ここまで、「オンライン商談への対応」「オンラインセミナーへの対応」の取り組みの問題をみてきたが、4つの課題に整理できる。
 人材・スキル:オンラインでの新しいマインド・スキルセットの獲得
 組織体制:営業個人に強く依存した体制から、組織的なマーケティング・営業活動へシフト
 プロセス:マーケティングから営業プロセスの再設計
 IT:組織横断したデジタル基盤の整備

 多くの企業はこれらの問題を認識しつつも、課題解決に向けた取り組みを進めきれていないのが実態である。それは、どこから着手すべきかを理解していないこともあるが、個々に取り組みを進め十分な成果を挙げられず途中で終わっていることも散見される。
 4つの課題を解決するには、ネットとリアルを融合させながら、関係する組織・人材の業務やマインドセット・スキルセットを同時に変えていくことが求められる。特に、従来の経験・成功体験が壁になり そもそも取り組む必要性を感じないメンバーをいかにしてその気にさせ、あるべき方向へ持っていけるかが鍵となる。つまり、いきなり4つの課題へ取り組むのではなく、「なぜ我々が課題へ取り組むのか」「どこを目指すのか」を明確化することが重要であり、『顧客接点のチャネルモデルの将来像』を描くことから始めるべきである。

現状の認識を揃えて、『顧客接点のチャネルモデルの将来像』を描く
 『顧客接点のチャネルモデルの将来像』の策定で最初に着手すべきは、関係者の認識を揃えていくための「現状調査」である。特に、顧客を正しく理解するところから始めなければならない。
 ある電子部品の専業メーカーでも、営業・マーケティング分野のDX(Digital Transformation)の取り組みの初期段階で顧客アンケートを実施している。その結果、顧客企業の設計者は、設計に必要な電子部品関連の情報を集めるにあたって、主に3つの情報源を活用しているが、その優先度はフェーズによって変わることが分かった。
 初期の段階では、「社内の過去データ」「サプライヤーのウェブサイトからの情報」「サプライヤーの営業担当者からの情報」の順に重視するが、候補を絞り込んで最終的に製品を選ぶ段階では、「サプライヤーの営業担当者からの情報」を圧倒的に重視するようになる。
 つまり、初期段階で脱落してしまう情報源もあり、リアルの営業活動とウェブサイトなどのデジタルな情報提供のどちらも重要であることが再認識された。現状調査で顧客の変化に対する関係者間の認識が揃うことによって、自分たちが取り組むべき課題とその理由も明確になってくる。
 次に、現在の自社の立ち位置を把握し、最終的にどこを目指すのか、一足飛びではたどり着けないので最初に到達すべき地点はどこなのかを明確化する必要がある。具体的には、以下のモデルケースを参考に、自社の「顧客接点のチャネルモデルの将来像」を描いていく。モデルケースでは、3つの段階「Lv.1リアル中心モデル」「Lv.2マルチチャネルモデル」「Lv.3自動・最適化モデル」に分けている。
 


 「Lv.1リアル中心モデル」では、認知拡大・見込客発掘から導入運用・サポートまで、営業担当が基本的に顧客対応を全方位的にカバーしている。顧客接点のチャネルもリアルが中心で、デジタルのチャネルといっても企業ウェブサイトのみに限られている。組織面では、マーケティングやカスタマーサポートの体制は十分に整備されておらず、担当組織があっても顧客接点で得られた情報管理・共有はほとんどできていない、もしくは限定的である。そもそも、営業担当が保有している顧客情報を関係組織間で共有されていないような状態である。
 「Lv.2マルチチャネルモデル」では、組織面ではマーケティング、営業、カスタマーサポートの体制が整備されていて、組織ごとの役割や担当範囲がある程度明確化されており、顧客接点のチャネルは自社の組織ごとに準備・提供されている。ただし、チャネル間や組織間の顧客情報の連携はできていない、もしくは限定的で、チャネルにより顧客対応が異なる。例えば、過去に営業担当者と製品導入に関する商談をしたことがあったものの、しばらく時間が経ったので企業ウェブサイト経由で顧客が問い合わせをしてきたが、当時の商談情報・顧客情報が自社内で共有されないままマーケティング部署が1次対応したため、時間を要した、または適切な対応ができなかったケースなどが該当する。
 「Lv.3自動・最適化モデル」では、顧客の状況・制約や嗜好に応じてチャネル間を移行できるように設計されており、顧客自身で選択した、もしくは誘導したチャネルでやりとりを行い、そのやりとりの履歴は社内組織間で共有される。
 このようなモデルケースを起点にして、将来的に顧客と自社の接点をどのように変えていくのか、どこで、どのような価値を顧客へ提供するのかといった視点から自社の「顧客接点のチャネルモデルの将来像」を具体化していくことが必要である。目指すべき方向性の認識が共通化されれば、自社の立ち位置と課題も明確になり、その後の課題解決の関係者間での議論も進みやすくなる。課題解決策検討の進め方については、本稿と同じコーナーに掲載する別稿『新型コロナ時代のBtoB営業・マーケティング変革~顧客接点のリアル・デジタルチャネル再設計の解決策検討の進め方~』を参照してほしい。
 最後に、顧客接点のリアル・デジタルチャネルの再設計は、マーケティング・営業の変革であり、経営陣のリーダシップが不可欠である。これらの変革を進めるほど、組織間のコンフリクトや新たな問題が浮上してくる。組織間を超えた調整や方針変更は、特定の部門で進めることができるものではなく、経営全体の視点から意思決定すべきものである。新型コロナウイルス感染症拡大によって個人の意識や行動が大きく変化している中、急速に進化を続けるデジタル技術を事業・業務へ取り入れて改革を推し進めるには、またとない好機であり、今後5年から10年先の姿を決める転換期である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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