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パリ協定に続け ~TNFD が導くサステナブルな経済復興~

2020年10月01日 高橋沙織


生物多様性を経済復興の軸に2021年COP15で推進
 2016年にパリ協定が締結されて以降、投資家や金融界からの後押しや圧力を受けながら、企業を取り巻く資金循環はパリ協定を基軸とする方向へと移行してきている。
 2021年には、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催される。検討されている2030年、2050年に向けた国際的な定量目標が締結されれば、パリ協定に倣い、金融界および企業が生物多様性を軸に、強靭な経済復興を推し進める後押しとなる。

TNFDが広げる生物多様性の情報開示とビジネスチャンス
 それらに呼応する形で、金融界のイニシアチブとして、2020年7月には、TaskForceonNature-relatedFinancial
Disclosures(TNFD)の発足計画が発表された。中心となっているのは、アクサやBNPパリバなど欧州の金融メジャーのほか、世界の有力金融機関や国際機関および省庁である。
 TNFDでは、生物多様性や生態系サービスへの企業の依存度、生物多様性が損失することによる企業リスク、企業活動が生物多様性の増減に与えるインパクト(正負両面を含む)を分析し、情報開示することが求められている。企業は、自然や動物、昆虫の花粉媒介や水資源等、様々な生態系を分析対象としなくてはならない。
 生物多様性価値を財務勘定に変換することを目指す企業や国際機関のイニシアチブであるNaturalCapitalCoalitionは、「自然資本」という概念を提唱している。自然や動物、虫等を人間に便益を提供する生態系資産(ストック)として捉え、水循環や虫の受粉サービス、メンタルヘルスの維持効果等を生態系サービス(フロー)の価値とする考え方で、TNFDの枠組みに活用される可能性がある。
 TNFDに関連する業種は多岐にわたる。林業、農業、漁業、土木・建設・不動産業はもちろん、農産物や水資源、土壌に依存する小売業、飲料製造業、運輸業等の関係性も深い。これ大きなレピュテーションリスクに晒されてこなかった業界でも、今後は対策が求められるようになる。
 清浄な水資源に依存する飲料関連や、各種の原材料を活用する製造業等を中心に、活用した原材料の量や保全に係るコストを情報開示する先進企業は日本にも存在する。しかし、TNFDでは、より多様な生物種や生態系を対象に、これまで以上に多くの業界で定量的な情報開示が推奨されるだろう。例えば、農業や漁業に依存する外食産業では、農薬による土壌汚染や、海外を含む農地の大規模森林改変、また底引き網漁等による海底環境の変化等のインパクトを計測し、情報開示することが期待されることになる。
 同時にTNFDは、テクノロジーの活用や新たな発想等を通じて、生物多様性リスクを低減し生態系サービスを補完する領域に、大きなビジネスチャンスをもたらす。狭小地や室内での農業を可能にするアグリテックや、効率的に森林の永続的管理を促進するフォレストテックのほか、都市の緑化を通じた自然レクリエーション等など多くのビジネスでチャンスが広がると考えられる。

先行する海外勢に取り残されるな
 生物多様性インパクト測定については、事業操業前の生態系ストックとサービス規模の計測が手つかずであることも多い。特に定量分析では、日本が海外勢に遅れを取りつつある。例えばオランダ中央銀行では、自国の銀行や年金基金が生物多様性の損失で被るリスクについての定量的な分析、開示を既に開始している。1.4兆ユーロの融資や出資ポートフォリオを分析し、うち生態系サービスに大きく依存する事業者への資金提供額が5,100億ユーロに上ることを特定した。また、8,000社以上の出資先が操業中において生物多様性に掛けた負の影響(フットプリント)を計測し、オランダからの出資比率に合わせて按分。結果、58,000㎢の自然を消失したことと同等のインパクトがあると公表した。
 このような先進事例や海外データが国内にどれだけ転用可能かは未知数であるが、生物多様性インパクトの計測に関する知見が不足し、日本企業の開示が出遅れる状況は避けなければならない。生物多様性を保全する機能として、IoTや技術等を用いた実行力の高いビジネスへの期待があるなかで、日本が世界の潮流から後れを取らないためには、企業による影響分析を始めることが不可欠である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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