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世界感(カン)消費 ~社会を革新する「企業と消費者」の新しい関係~

2020年10月01日 和田美野


SDGs をきっかけとした新たな消費「カン消費」
 社会の変化に合わせて消費者の姿は刻々と変化しており、企業は消費者に選ばれ続ける企業であるために日々対応 を迫られている。直近のコロナ禍も消費者の変化を促して いることは間違いないが、中長期的なトレンドとしては、2015 年に国連サミットにおいて採択された持続可能な開発目標(SDGs)による「社会課題」への関心の高まりであり、それに伴い新たな消費が生まれてきている。
 ここでの新たな消費とは、消費者が単に企業の提供する商品やその商品に付帯する社会貢献性といった表面的なものに価値を感じるのではなく、企業が目指すよりよい社会や世界「観」に共「感」し、その社会をつくる仕組みに参画する消費行動である。消費のトレンドが「モノからコトへ」移行していることは今や当たり前とされるが、それをさらに「社会課題の解決への参画」というコトの方向に進めた形のこの消費のあり方を、ここでは「カン消費」と定義したい。

「世界観」と「共感」がサービスに価値を生む
 カン消費では、企業は、感度の高い消費者とともに実現したい世界観を共創し、その世界観に広く浅く共感する消費者を顧客として商品を提供していく。重要な点は、企業側からみた消費者が 2 種類に分かれることである。世界観に深く共感して企業とともに世界観を共創する消費者と、それとは関係なく商品そのものに価値を感じる一般的な消費者が存在するため、企業はどちらか一方ではなく、両者に対してそれぞれ価値提供しなければならない。
 テラサイクルによる循環型ショッピングプラットフォーム「Loop」は、日用品等を使い捨て容器から繰り返し利用可能な容器へと変え、集荷された商品を充填して消費者のもとに戻すサービスである。企業は、普段利用している商品が充填されて配送される利便性や、繰り返し利用可能な容器の機能性を独自のデザインを通じて訴求することで、広く顧客である消費者を獲得していくことになる。一方で、サービスの根幹である目指すべき世界観は、廃プラスチック削減の活動そのものに参画することに価値を感じる消費者にサービスを提供しながらアップデートを続ける必要がある。
 コークッキングによる「TABETE」やSHIFFTによる「Reduce GO」は、店舗でロスになりそうな商品を消費者とマッチングさせ食品ロス削減を支援するサービスである。いつもより安価に商品を手に入れられる経済的価値が、より多くの顧客の獲得に寄与すると思われる。今後のサービス発展には、食品ロスの削減という世界観に参画することに価値を感じる消費者との一層の共創が鍵となるであろう。

「企業と消費者」で社会課題を解決
 社会課題の解決には、企業のみの努力ではなく消費者 の努力、消費者の行動変容が不可欠である。一企業の努 力で全ての消費者の行動変容を促すことは困難ではあるが、一部の消費者の行動変容は可能といえる。ただし、その行 動変容のきっかけが表面的な価値提供によるものでは、賢 い消費者には簡単に見抜かれてしまう。
 「組織の成功循環モデル」という考えでは、組織がより良い結果を残す(結果の質を高める)ためには、まず関係性の質から改善する必要があるとされるが、これは企業と個人からなる社会にも適用可能であろう。消費者は、企業そのものを理解することは困難であるが、企業が目指すより良い社会という世界観は理解しやすい。
 世界観への共感をきっかけとして、企業と一部の消費者の間で成功循環モデルが回り始め、賛同する企業や消費者が拡大しスパイラルアップしていくことで、最終的には社会課題の解決=社会変革を引き起こせるのではないか。
 企業にとって、消費者と良好な関係を構築していくことは、モノ・サービスがあふれる時代において重要な戦略の 1 つである。消費者と企業の距離が進化したテクノロジーによっ て近くなっていることを機会とし、単に消費者とのコミュニケ ーションを活発化させるだけでは十分ではない。企業は消費者が自分たちに何を求めているのか(ニーズ)を把握するだけではなく、消費者に自分たちを知ってもらう、例えば、目指す理念やビジ ョンの共感を獲得し、お互いの理解を深める活動が重要となる。安定した顧客基盤を獲得し、成長を持続させるには、消費者と企業がより深い関係性を構築し、今まで以上に強くつながることが必要な時代になったといえる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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