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JRIレビュー Vol.2,No.86

企業間取引デジタル化の拡大に向けてー追い風を活かすために普及策の実行を

2021年02月05日 成瀬道紀


わが国企業におけるデジタル化の後れが指摘されるなか、近年、大企業では後れを取り戻すべく、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革や新サービスの開発など「攻めのデジタル化」を強化する動きがみられる。ところが、中小企業では、効率化など「守りのデジタル化」も十分でない企業が多い。分野別にみると、受発注や請求など企業間取引のデジタル化がとくに後れている。

企業間取引のうちデジタル化されているのは、金額ベースで、受発注が全体の3割強、請求書が数%程度とみられ、残りはFAX・郵送・Eメール・電話などで行われている。このため、企業内では印刷・封入や書類の保管、社内システムへの手入力などで膨大な負担が生じている。企業間取引をデジタル化することで、総労働時間を6%程度削減できるとの実証研究結果もあり、効率化への期待は大きい。また、デジタル化することでデータが蓄積され、経営判断や新サービスなどへの活用も展望できる。

企業間取引のデジタル化の歴史を振り返ると、個別EDI(電子データ交換)からスタートし、業界標準EDI、Web-EDIへと推移してきた。しかし、これらのEDIは、個々の大企業の独自の規格にあわせるため中小企業にとってはむしろ非効率となったり、導入コストが高かったりするなどの課題があり、中小企業への普及が進まなかった。普及拡大を図るには、業界横断的な標準規格に準拠した安価なEDIサービスが必要である。

足元で、企業間取引のデジタル化の普及拡大に向けて追い風が吹いている。まず、中小企業共通EDIや電子インボイスの標準規格など、業界横断的な標準規格が確立しつつある。次に、クラウドの普及によって、安価なEDIのクラウドサービスが提供されるようになった。さらに、法律・制度面の追い風もある。電子帳簿保存法の改正で請求書のデジタル化が進めやすくなったことに加え、2023年のインボイス制度の導入や、2024年のISDNのサービス終了など、企業が取引のデジタル化を進める契機となるイベントが続く。また、新型コロナ禍でテレワークが普及し、押印廃止やペーパーレスの機運が高まっていることも、企業が取引のデジタル化を検討するきっかけとなろう。

このように追い風が吹いている一方で、企業にとっては、企業間取引のデジタル化に投資しても、取引先がデジタル化に対応しない限り効果がないため、他社に先駆けて取り組むメリットは少なく、様子見状態が続いてしまう懸念もある。企業間取引のデジタル化を普及させる環境は概ね整った状況下、あとは利用企業を増やすことが大切である。普及拡大を加速させるためには、①認知度の向上、②政府によるインセンティブ付与、③大企業から中小企業へのデジタル化の呼びかけ、④金融機関の活用、などが有効と考えられる。

企業間取引のデジタル化は、協調領域として、個社や業界の利害を超えて標準化に協力しつつ、わが国産業界一丸となって取り組むべき分野である。そうすることで、わが国企業部門全体の生産性の向上と競争力強化が図られる。また、政府が提唱するConnected Industriesは、データが企業などの壁を越えて連携され、課題解決のために有効活用される社会を目指しているが、企業間取引のデジタル化は、その第一歩になると期待される。
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