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【IT動向リサーチ】
量子暗号通信に関する動向

2021年02月01日 先端技術ラボ 金子雄介、間瀬英之、身野良寛


本レポートでは、量子暗号通信に関する動向を考察した。

量子暗号通信とは、暗号鍵を量子の一種である「光子」に載せて送る通信方法である。量子コンピュータが実現すると一部の公開鍵暗号方式が危殆化する懸念があり、その解決策の一つとして、量子暗号通信の実用化が研究されている。

量子暗号通信は、光子が持つ量子的ふるまい(分割不能性・複製不能性)を根拠に、盗聴されていないことが保証された暗号鍵を共有する。これにより、いかなる計算機でも解読不能であるという、情報理論的安全性を持つ暗号通信を実現する。量子暗号通信には、量子鍵配送(QKD)とワンタイムパッド(OTP)と呼ばれる要素技術を用いるが、量子鍵配送が直接可能な数十km程度より遠距離の通信には中継点を要する。中継点における鍵の盗聴リスクを解決するための、量子中継技術の研究も進められている。

量子暗号通信の社会実装状況に目を向けると、中国がスピード・規模で先行し、韓国とドイツが大規模網の構築に着手する一方、米国、英国、日本における取り組みは小規模・局地的である。日本では、NEC、東芝、情報通信研究機構などで研究開発が進められ、2021年度からは防衛・警察の通信網のセキュリティ対策として実証事業が始まる予定である。

量子暗号通信の普及には現状、光ファイバー網の整備といった大規模な設備投資を要するため、民生向けは時間を要する。ITメーカーは、国防・警察・医療分野の機密データ共有などで運用実績を得て、民生用途へ展開・普及を図る戦略をとっている。また、ガイドライン・標準の策定も待たれる。標準規格を採用した複数の網が相互接続することで、用途やユーザの拡大につながる。サービス提供事業者も今後、量子暗号システム事業のエコシステムを構築し、裾野の広い通信インフラ事業として展開するため、量子暗号技術だけでなく、秘密分散・秘密計算・耐量子暗号といった複数の要素技術を組み合せた分野横断の量子セキュリティ技術分野を創出し、産官学連携での試験運用を通じた人材育成が求められる。そのような取り組みの結果、中長期的にはインターネットやクラウドサービスのインフラとして普及すると見込まれる。

量子暗号通信に関する動向(PDF:2508KB)
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