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2009年02月13日

カバード・ボンド グローバル金融市場における金融仲介機能回復に向けて

リポートの要旨
 2007年夏のサブ・プライム危機、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻を経て、国際金融市場における金融仲介機能は大きく低下した状態が継続。
 そうしたなか、欧州で発達し、債券市場の主要な一角を占めているカバード・ボンドは、今回の危機で露呈した、オ フ・バランス型の証券化市場(MBS、CDO等)の弱点を克服する特質を具備。これが市場参加者から高く評価され、極度のストレスが作用している今回の危 機においても、他の証券化商品とは異なり、総じてパフォーマンスは堅調。
 国際金融市場における金融仲介機能を回復するために、カバード・ボンドは今後活用の余地が大。わが国においても、法制度の整備を含め、検討することが望まれる。
カバード・ボンド市場の拡大
-欧州債券市場で、国債に次ぐ主力セクターに成長
1.カバード・ボンドとは
 カバード・ボンド(covered bond、担保付き債券の意味)とは、(1)質の高い担保(不動産、公共セクター向け融資債権等)で構成されるカバー・プール、(2)発行金融機関の双方に対して、二重にリコ-スすることができる債券(図表1)。
-投資家にとっては、国債に次ぎ安全性が高く、かつ国債よりやや高めの利回りを期待できる投資対象。
-金融機関にとっては、ベースとなるスワップ金利を下回る低利での調達が可能。
 担保債権は(1)不動産(住宅、商業用)、(2)公共セクター(自治体等)向けが中心。いずれも、価額の評価さえ誤らなければ、安全性の高い債権。
2.市場の拡大
  カバード・ボンドの原型はドイツのファンドブリーフ債。すでに200年余りの歴史をもつ。1995年のジャンボ債の導入(発行ロットの大型化、規格化)で市場拡大に弾み。次いで2000年頃からは、金融技術革新により、特定の法制度が未整備の国でも、伝統的なカバード・ボンドの特質を具備するストラクチャード・カバード・ボンドを発行することが可能に。その結果、カバード・ボンドは、欧州諸国を中心に急速に拡大。
 2007年末の市場規模は、2.1兆ユーロに到達(図表2)。残高を国別にみると、発祥の国ドイツが4割強のシェア(図表3)。さらに、ユーロ圏諸国による発行が7割強を占める(図表4)ほか、近年では、アメリカやカナダにおいても発行実績。
 ファンドブリーフ債は、ドイツの債券市場においては2割弱のシェア(図表5)。カバード・ボンドのシェアは、ユーロ圏全体の債券市場において1割強に上昇。金融機関にとっては市場から資金調達する際の2割強を占める重要な手段に(図表6)。
カバード・ボンドとは
-オフ・バランス型の証券化とはどこが違うのか
3.オフ・バランス型の証券化の弱点
 今回の国際金融危機においては、CDO(collateralized debt obligation)やMBS(モーゲージ担保証券)といった、オフ・バランス型の市場型間接金融手法としての証券化商品の、次のような弱点が露呈。
  1. 証券化して原融資債権のリスクを細分化し、移転する過程で、個々の融資債権のリスクを情報開示する仕組みや、質(信用力)の維持を図る仕組みが存在せず。
  2. 証券化商品の発行金融機関は、当該証券化商品をいったんオフ・バランス化して発行してしまうと、その後の担保債権の信用力の維持に対し、責任をもつ仕組みとも、また、規制上の枠組みともなっておらず。
4.カバード・ボンドの制度設計
 これに対して、カバード・ボンドは、オン・バランス型の市場型間接金融の手段(図表7)。市場型間接金融は、制度設計を誤れば、上記①②のような問題を招来しかねない可能性を考慮し、200年余り昔から、極めてシンプルな発想で、以下のように制度設計。
  1. 担保資産の高い質を、満期到来までの間、一貫して維持するため、
    (イ)発行銀行に対し、担保資産の継続的な情報開示を義務付け。
    (ロ)金融当局ないし第三者が担保資産を監視。
    (ハ)必要な場合には、担保資産の入れ替えを随時行わせる。
  2. 発行金融機関にとっては、担保資産が発行後も引き続き自行のバランス・シート上に残るため、カバード・ボンド発行後も、リスク管理を一貫して行うことが必要。
5.両者の信用力(金利)の比較
 こうした制度設計上の相違を背景に、カバード・ボンドの方が、資産担保証券よりも信用力が高い、というのが市場の一般的な評価。
 例えば、今回の危機到来前の「平時」における両者の金利水準を、同種のモーゲージ(不動産向け融資債権)担保のものについて比較すると(図表8)、カバード・ボンドの金利は、資産担保証券よりも、おおむね15~20bp低く、民間銀行の調達金利の基準であるスワップ・レートをも下回るレベルで推移。
国際金融市場の動揺とカバード・ボンド
-他の証券化商品と異なり、パフォーマンスは総じて堅調
6.今回の国際金融危機下のカバード・ボンド
 カバード・ボンドのこうした「プルーデントな(適切にリスクが管理された)」制度設計と運用に対する市場の評価は、今回の国際金融危機という、極度のストレスがかかった局面で一層明白に。
 2007年夏のサブ・プライム危機発生後の金利水準(アセット・スワップ・スプレッド)を、同種のモーゲージ担保のものについて、オフ・バランス型の証券化商品(RMBS)と比較すると(図表9)、RMBSのスプレッドが大きくワイドニングする一方で、カバード・ボンドは相対的に小幅のスプレッド拡大にとどまる。
 この点は、特定の法制度に基づかないストラクチャード・カバード・ボンドよりも、堅固な法制度に基づく伝統的なカバード・ボンドに顕著。とりわけ、独のファンドブリーフ債や、仏のオブリガシオン・フォンシエール(OF)の金利は、2008年入り後も数カ月間は、スワップ金利を下回る低いレベルが継続(図表10)。
 この間、カバード・ボンドの新規発行も、公募形態はさすがに伸び悩んだ一方、私募形態・抵当カバード・ボンド(不動産向け)を中心に底堅く推移。
-独のファンドブリーフ債の2008年1~10月の新規発行額は以下の通り。
   総額                 …1,334億ユーロ(前年同期比+18%)
   抵当(不動産向け)・船舶ファンドブリーフ債…496億ユーロ(同+174%)
   公共(セクター向け)ファンドブリーフ債  …838億ユーロ(同▲12%)
7.欧米金融当局の評価
 こうしたパフォーマンスには欧米の金融当局もすでに注目。
-ECBは、今回の危機下におけるカバード・ボンドのこうしたパフォーマンスを、この資産クラス(債券)の具備する“resilience(回復力、弾力性)”の表れであると評価(Covered Bonds in the EU Financial System, December 2008)。
-サブ・プライム危機を契機に、オフ・バランス型の証券化市場が壊滅的な影響を受けたアメリカでは、2008年7月にFDICがカバード・ボンドの基準を設定したほか、財務省もベスト・プラクティスを公表。同国の11兆ドル規模の住宅モーゲージ市場を立て直すべく、カバード・ボンドを追加的・補完的な資金調達手段と位置付け。
カバード・ボンドに一段の活用の余地
-金融仲介機能回復のための有望な一手段
8.国際金融市場における「プルーデントな」金融仲介機能回復に向けて
 現時点においても、国際金融市場におけるプレイヤー間の相互不信状態は、なお解消したとは言い難い状態。当面、緊急避難策としての政府の関与から脱却できない状態が継続する可能性。
 こうした「有事」モードから、市場に「平時」モードを回復させることは、政府・金融当局の役割。もっとも、市場における本来の金融仲介機能は、政府の手で回復できる性質のものではなく、民間金融機関によって回復するよりほかにないもの。
 その意味で、カバード・ボンドは、国際金融市場における金融仲介機能を回復させるための一つの有望な手段となり得るのではないか。
-市場型間接金融自体は、リスクの移転先を多様化し、金融仲介機能を円滑化・効率化するもの。その重要性は今回の危機を経ても不変。今回、我々が誤ったのはあくまで、市場型間接金融をいかに「運用」するかという点。市場型間接金融を用いたこと自体が誤っていたわけでは決してない。
-カバード・ボンドは、オフ・バランス型の証券化がもつ弱点を克服する特質を有するもの。
-その「プルーデントな(適切にリスクが管理された)」制度設計と運用の堅固さに対する市場の高い評価は、今回の危機におけるパフォーマンスが実証。
9.わが国へのインプリケーション
 カバード・ボンドが対象とする不動産向け、自治体等の公共セクター向けの分野は、わが国では従来、財政投融資をはじめとする公的金融が主体となって担ってきた分野。わが国が、極めて巨額の公債残高を抱えるなか、公的金融による今後の対応能力には限界も。
 とりわけ、中・長期の金融仲介機能を回復させるうえで、民間金融機関によるカバード・ボンドの枠組み活用は検討に値するのではないか。
-ただし、2008年9月のリーマン破綻以降は、欧州主要国が軒並み、銀行負債に対する政府保証の付与を行っているため、投資家の需要が政府保証銀行債に集中し、クレジット市場に大きなゆがみが発生(前掲図表9、10)。信用力の高い資産クラスとして、カバード・ボンドが市場で再び機能するようになるためには、この状態が解消されることが必要。
 わが国でも、将来的には、法制度の整備をも含めて、検討することが望まれる。
-各国のカバード・ボンドのパフォーマンスをみる限り、特別な法制度、とりわけ堅固な法制度を基盤に発行している国(後掲参考図表5、6)の方が、相対的なパフォーマンスは良好(図表11)。
-具体的には、一般的な民事法としての倒産法の規定の効果を遮断する、特別な法整備が必要(後掲参考図表1・2)。
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