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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】今年の中国を占う

2021年01月14日 副理事長 高橋邦夫


いくつかの国でワクチン接種が始まったものの、世界的には未だ新型コロナウイルス感染の終息の見通しがないまま、2020年が終わり2021年が 幕を開けた。そうした中、一足先に新型コロナ封じ込めに成功したとする中国は、2020年通年の経済成長率が主要国の中で唯一プラス成長となると見られている。そして、今年2021年7月に、中国共産党は成立100周年を迎える。
同時に、今年、中国は、米国のバイデン新政権とどう向き合っていくか、 9月には延期した立法会選挙が行われる香港をどう統治していくか、更には共産党統治の正統性を担保する経済成長を如何に持続するか等々の難題も抱えている。
中国共産党成立100周年という特別な意味を持つ2021年を、中国自身はどう迎えようとしているか、中国を取り巻く内外の動きを俯瞰しつつ読み解いてみたい。

1.中国共産党成立100周年

中国共産党は、今を遡ること100年前の1921年7月23日に上海のフランス租界で産声を上げた。但し、今日、中国共産党は7月1日を党創建記念日としていることから、今年の7月1日には、大々的に党創建100周年を祝賀することになろう。
厳密に言えば、2020年年初 に中国政府自身が発表した「小康社会実現」の具体的メルクマールである対2010年比での所得倍増に必要な5.6%成長は、新型コロナの影響でほぼ不可能と見られているものの、昨年2020年12月31日に行った「2021年新年賀詞」で習近平・国家主席は、「小康社会の全面的建設という歴史的成就を成し遂げた」と発表し、続けて、2020年までに達成するとしていた貧困脱却でも「決定的な勝利を勝ち得た」として、習近平総書記が就任した2012年からの8年の歳月を経て、1億人近い農村の貧困人口が全て貧困から脱却したと述べている。更に、2020年には国内総生産(GDP)が100兆人民元の大台に上るであろうとも述べている。
こうした成果を踏まえて、中国は、今年2021年からは「第14次5カ年計画」及び2035年までの長期ビジョン「ビジョン2035」を始める。後者について、習近平総書記は「2035年までに経済の総量と一人当たり収入の倍増を実現することは、完全に可能である」という言い方で、新たな「所得倍増」の目標を明らかにした。あるエコノミストの試算によれば、これを実現するためには年平均4.8%の成長が必要であり、かつて日本で起きたバブル崩壊のようなことが起きない限り、この成長は実現可能であるとのことである。
また、年末には英国の経済関係のシンクタンクが、これまでの予測よりも5年早い2028年に中国が米国に代わって世界最大の経済大国になろうとの予測を発表した。更に、7年越しの中国・EU投資協定交渉も、12月30日には大筋合意に達した。
このように書き連ねると、今年2021年の中国は一見「順風満帆」に見えるが、果たしてそうであろうか。以下、既に見え隠れしている今後中国が直面するであろう内外の課題について考えてみよう。

2.対米関係の行方

現地時間の1月6日、トランプ大統領支持者が一時議会を占拠するという異常な事態が生じたものの、バイデン民主党候補の勝利が最終的に確定し、1月20日の宣誓式を経て、バイデン氏が新たな大統領に就任する。中国は今年、様々な課題に直面することが考えられるが、対外関係での最大の課題は、間違いなく米国との関係の行方であろう。昨年の大統領選挙の過程で、トランプ大統領は、中国の急速な台頭擡頭に対する米国内の警戒感・不安感を背景に、中国に対する様々な制裁を課して、保守層を中心とした有権者の支持を得ようとし、またバイデン候補の勝利が明らかになった後も、バイデン次期大統領の政策の自由度を縛ることにより自らの影響力を残そうとの思惑から、あるいは米国議会で党派の違いを超えた対中強硬姿勢の結果採択された法案への署名という形で、次々と中国に対する強硬な法案ヘの署名・大統領令の発出を行っている。
これに対し、バイデン次期大統領は、トランプ大統領の制裁関税により米国の対中貿易赤字を減らそうとした政策を批判しつつも、例えば昨年12月11日に中国系のキャサリン・タイ次期米通商代表を指名した際の記者会見では、中国の知的財産権侵害や国有企業などへの政府からの補助金を念頭に、中国の不公正な産業・貿易政策の是正に取り組むと表明している。
また、伝統的に民主党は人権問題への関心が高いことを考えると、新疆ウイグル自治区や香港での人権問題に対するバイデン次期政権の対応は、場合によってはトランプ大統領政権のそれよりも一層厳しくなる可能性さえある。更に、これまでトランプ大統領が中国に課してきた様々な制裁措置を、バイデン次期政権が、時には行き過ぎた制裁と判断して、あるいは対中関係改善のための「取引材料」として解除しようとする際には、解除するに足りる理由がなければならず、かつそれによって米国議会、更には米国民を納得させることが必要である。もし、いつまでも解除されない場合には、中国側の反発を招き、それがまた米国内の中国への警戒感が強まるという「悪循環」に陥る恐れさえある。
他方、バイデン次期政権が、トランプ大統領同様にあらゆる面で中国との対立を選ぶかと言えば、必ずしもそうではないであろう。取り敢えず思い浮かぶ事例として、環境問題への対応や北朝鮮の非核化については、中国と米国が政策の方向を同じくしており、協力する可能性が考えられる。中国は、昨年9月に国連総会でビデオでの演説をおこなった習近平主席が2060年までに「カーボン・ニュートラル」を実現すると発表するなど、引き続き環境問題に積極的に取り組んでいく姿勢を示す一方、バイデン次期大統領は、自らが大統領に就任する今年1月20日に、トランプ大統領が脱退した「気候変動問題に関するパリ協定」へ復帰すると発表しており、米中が、 他の課題での協力を模索する観点からも、環境問題で歩調を合わせる可能性が十分にある。また、北朝鮮の非核化問題も、米中の利害が一致しうる課題である。その点、注目されるのは、1961年7月に有効期間20年で締結された「中朝友好協力相互援助条約」が1981年及び2001年の延長に続いて、今年33回目の延長時期を迎えるという事実である。中国が、今回の「本条約の延長」を対北朝鮮関係、更には対米関係でどう活用するか、今後の中朝関係の動向、また米中関係の動向を注視する必要がある。
一方、中国は昨年11月に習近平国家主席がバイデン次期大統領に祝電を送った際に「衝突せず、対抗せず、相互尊重、協力ウィン・ウィン」と述べているとおり、バイデン政権とは当面は事を荒立てず、注意深く今後のバイデン政権の対中政策を見定めるという方針であるように思われる。ただ、年初1月9日に中国が発表した「外国法の域外適用措置規則」に見られるように、米国が取る措置に対する対抗措置を取ることは今後も十分予想され、かつそれが日本を含む第三国及びその企業に影響が出てくる、即ち、第三国企業の立場から言えば、中国と米国のどちらを選ぶか選択を迫られる可能性があることは、念頭に置いておくべきである。

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