国際戦略研究所 研究員レポート
【中国情勢月報】中国はバイデン次期米政権とどう向き合おうとしているか
2020年12月15日 副理事長 高橋邦夫
11月3日に投票が行われた米国大統領選挙は、トランプ大統領は未だ敗北を認めず法廷闘争を続けるとしているが、11月7日に米国の主要メディアが民主党候補のバイデン元副大統領が獲得した選挙人の数が過半数を超えたと報じたことを受けて、同候補が勝利宣言を行い、また紆余曲折はあったものの、11月23日からは政権移行手続きも始まった。更に、12月14日には各州で選出された選挙人の投票も行われ、民主党のバイデン候補が過半数の選挙人を獲得した。
このように、ある意味異例な状況で推移している米国大統領選挙の結果ではあるが、これに対して中国当局はどのように反応し、バイデン次期政権とどう向き合おうとしているのか。これについて中国政府の発表や中国の有識者の論評などを手がかりに、読み解いていきたい。
1.大統領選挙中の中国の対応
米国の大統領選挙が本格化し始めた今年後半以降、外交部定例記者会見で「中国としては、トランプ大統領とバイデン候補のどちらが勝つことが望ましいと考えているか」的な質問が出るたびに、外交部報道官は「米大統領選挙は他の国のことであり、他国の内政についてはコメントしない」としつつ、選挙戦で中国との関係が取り上げられた際には「我々は、米国大統領候補者が選挙で中国を持ち出すことには断固反対である」(現地時間9月29日に行われた第1回テレビ討論会について質問された外交部報道官の回答)などと大統領選挙で中国問題が取り上げられることに対して明確な不快感を表明してきた。
一方、米中関係について質問された場合には、外交部報道官は一貫して「中国の対米政策は安定性と連続性を維持している。我々は米国と、衝突せず、対抗せず、相互尊重、協力・ウィンウィンの関係を発展させるように努力する一方、中国自身の主権・安全・発展の利益は断固として守っていく」との原則論を繰り返した。
2.投票後の中国の対応
11月3日に米国大統領選挙の投票が行われたが、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえて、今回の選挙では、特にバイデン陣営が期日前投票や郵便投票を呼び掛けた結果、各州において各候補の獲得投票数確定に時間を要することになった。その間、選挙について質問されると、例えば11月5日の上海協力機構元首理事会への習近平国家主席の参加について事前ブリーフをする内外記者会見に出席した楽玉成・外交部筆頭副部長は記者からの質問に対し「米国の次期政権が中国と相向き合い、衝突せず、対抗せず、相互尊重、協力・ウィンウィンの原則に則って、協力に焦点を当て、相違点を管理・コントロールして、両国関係を正しい軌道に沿って発展させるよう希望する」と、原則論を述べつつも、どちらの候補者が選ばれるにしろ、次の政権とは良好な関係を築いて行きたいとの期待をにじませた。
それと同時に、中国が共和・民主どちらが与党になったとしても対応できるよう周到な準備をしていたことを伺わせる事実も見られた。それは、結果的には、バイデン候補の当選が確実視された後のことになったが、中国は11月中旬に余り間を置かず、民主党・共和党夫々の有識者が参加する以下の2つのセカンド・トラック(あるいは「1.5トラック」)のフォーラムをテレビ会議方式で開催した事実である。
・「中国発展高層論壇2020(China Development Forum 2020)」11月11日~13日
国務院発展研究センター主催で開催され、中国側からは韓正・副首相、韓長賦・農業農村部長(農業大臣)など現職及び元の政府関係者が多数参加した。海外からも米国を中心に多くの有識者が参加したが、米国からの参加者は、サマーズ元財務長官、ルービン元財務長官、キャンベル元国務次官補、フリードマン・『ニューヨーク・タイムス』紙コラムニストなど多くの民主党系の有識者であった。
・「創新経済論壇(New Economy Forum)」11月16日~19日
中国国際経済交流センターが米国ブルームバーグ社などと共催したものであるが、中国側からは王岐山・国家副主席、曾培炎・中国国家経済交流センター理事長(元副首相)などが、外国からの参加者のうち米国からはキッシンジャー元国務長官、ポールソン元財務長官など共和党系の有識者が多く参加した(但し、本フォーラムの主催者の一人であるブルームバーグ同社創始者は、これまで共和・民主両党に属した経歴を有し、今年の大統領選挙には民主党から立候補し、その後脱落)。…
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