IKUMA message
官民デシタル化、「変わるための千載一遇」の期限
2020年12月08日 井熊均
現政権の目玉政策の一つが行政のデジタル化です。新型コロナ関連の申請やデータ分析などで日本の行政のデジタル化がいかに遅れているかを痛感しましたから、多くの人が期待しています。それにしても、技術先進国の一角を占める日本の行政で、何故かように先進技術の取り込みが遅れたのでしょうか。人材、財政、制度等、色々な理由があると思いますが、長く行政に関わってきた経験から言わせていただくと、最大の理由は「変わらなくてはいけない」という意識を持ちにくいからだと思います。民間企業がデジタル技術を導入する最大の理由は競争に勝つためです。そのこと無しにデジタル化を進めても、費用ばかりかかって大した効果は上がらないだろう、と思う民間人は多いはずです。行政は特定の領域で独占的な権利を持っている組織なので、民間企業と同じ意識は働きません。行政のデジタル化を進めるためには、疑似的な競争環境を作るなどして「変わらなければいけない」という意識を醸成することが不可欠なのです。
一方、民間企業のデジタル化は進んでいるのでしょうか。夏を過ぎた頃から通勤電車の乗車率が戻ってきました。緊急事態宣言期間中の巣ごもりに多くの制約やストレスがあったことは間違いありませんが、普段は進まない改革を推し進める千載一遇のチャンスという側面もありました。オンラインの仕事に限界はありますが、通勤に伴う時間、体力、意欲のロスを大幅に減じ、伝達をシンプル化し、組織の見直しの示唆を与え、会議を効率化する、などの効果は明らかにありました。しかも、オンラインの性能は今後も飛躍的に向上するのです。経営者、管理職には、コロナ前の業務スタイルへの回帰を決める前に、10年後のオンライン環境を想像する力が求められていると言えます。
ワクチンが効果を発揮した場合、2021年の前半に新型コロナの制約は解消されているかもしれません。「変わるための千載一遇の機会」の期限が迫っている、という意識が必要なのだと思うのです。
※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。