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コロナ禍を通して考える経営戦略としてのダイバーシティ推進

2020年11月30日 山名景子


1.ダイバーシティ推進が求められてきた背景
 昨今ダイバーシティ推進の重要性が、イノベーション創出やリスク対応の観点から認識されるようになってきた。その背景として、確実に人口減少が進んでいる日本において、長い間企業のマジョリティであった「日本国籍・健常者・男性・60歳以下」の人材を主力としていくことが困難になってきている現状がある。今後日本企業が成長していく上で、様々な属性、またそれに伴う多様な考え方を受け入れていくことが不可欠である。経済産業省が2017年に発行したダイバーシティ2.0(競争戦略としてのダイバーシティ経営)行動ガイドラインは、その冒頭で「ダイバーシティ2.0は、一朝一夕には実現できず、手をこまねている余裕はない。女性活躍も未だ道半ばであり、もはや「ダイバーシティは本当に必要なのか」という議論に時間を費やすのではなく、一刻も早く具体的な行動を起こし、実践フェーズへと移行すべきである。」(※1)と述べ、ダイバーシティ推進の重要性と早急性を明確に示している。

2.コロナ禍による働き方改革
 今このコロナ禍における在宅勤務の拡大やリモートワークの導入などの働き方改革の波は、うまくいけば多くの日本企業にとってダイバーシティ推進の後押しとなる可能性を秘めている。例えば、リモートワークの導入は様々な属性の人材に活躍する機会を提供することができるようになる。これまで身体的に障がいがあり、車いす等を使用している場合、移動の多い営業職は難しいと考えられていたかもしれない。しかし、多くの企業が対面営業からリモート営業に移行する中、移動にハードルがある人材でも家から十分に対応できるようになっていく可能性がある。また、在宅ワークがより浸透していくと、居住地の縛りがなくなるため、より多様な働き方が可能になる。究極的には、日本国内に住んでいなくとも雇用できるようになってくる。例えば、他国の優秀なエンジニアを雇用することなども考えられる。急激な働き方の変革に伴い、企業は従来よりも多用な人材を雇用できるようになっていくものと予想される。

3.日本企業でダイバーシティ推進が進まない背景
 一方で、日本企業においてダイバーシティ推進が思うように進んでこなかった背景について、その要因を明らかにしない限り、また同じ過ちを繰り返すことになるであろう。第二次安倍政権は日本の成長戦略の柱の一つとして女性活躍推進政策を打ち出し、2020年までに社会のあらゆる分野において、指導的地位に占める女性の割合を30%まで引き上げるという目標を掲げていた。しかし、2019年の厚生労働省の調査では課長相当職以上に占める女性の割合は11.8%(※2)と、企業内での活躍という意味では、目標の半分にも満たない実績にとどまっている。
 日本企業において、ダイバーシティ推進が思うように進んでこなかった要因の一つとして、従来型の組織(日本国籍・健常者・男性・60歳以下が中心となっている組織)風土や制度の変革を行わず、多様な人材の割合を増やすことだけに注力してきたところにあると考えられる。そして、従来型の組織の中で多様な人材が思うように活躍しなかった際に、根本的な課題に目を向けず、個人の能力の問題としてきた背景がある。

4.女性活躍の失敗事例
 例えば、女性活躍の例を挙げると、政府の方針に基づき、多くの企業で女性管理職の割合を「○年までに○%増やす」という目標が掲げられ、その目標を達成するために人事部が必死で女性の管理職登用を進めてきた。一方で、女性活躍を意図して管理職に登用してきた方々が、企業の望む通りに活躍してくれない、もしくは女性自身が管理職になることを望まないという話をよく聞く。なぜ、女性管理職が活躍しないのか、なぜ管理職になりたがらないのか、その理由を構造的に紐解いていく必要がある。
 女性が管理職を担う上でのハードルとして、物理的・心理的な側面がある。まず、物理的ハードルとして最も大きいのが労働時間を含む働き方の問題である。特に、家族を持つ女性の場合、管理職になることで時間の制約がどれほど出てくるのか不安になるであろう。2017年の総務省の調査によると、女性の家事関連時間が1日3時間28分に対して、男性は44分(※3)である。もとより女性活躍は一企業の努力だけでなし得るものではなく、文化的背景に基づく男女の役割分担意識の見直しなど、社会構造の変革から考える必要がある。企業としてできることは、現状を的確に把握した上で、どのように女性に活躍してもらうかを考えることである。先に述べた家事関連時間の問題については、家族を持つ女性が男性と同様に1日の時間を仕事に費やせないことは容易に考えられる。例えば、子供が急に熱を出したときに重要な会議がある場合、男性であれば多くの場合、妻が対応してくれるので問題なく会議に出席できるが、女性の場合、自分が行かざるを得ない状況に置かれていることが多い。その際、会社はどう考えるのであろうか。大事な会議より子供を優先するような社員に管理職は任せられないという考えならば、確実に女性活躍は進まない。
 次に、女性が管理職を担う上での心理的ハードルも大きい。まず、女性管理職のロールモデルがない中、どのような管理職を目指していけば良いのかイメージがつかない。また、管理職になったとしても、圧倒的マイノリティの中で、本当に平等な意思決定の機会を得られるのであろうか。これまであうんの呼吸で進んできた男性管理職中心の組織の中で同調圧力がないとは考えづらい。さらに、男性社員と比較して管理職になるマインドセットやスキルセットの教育を受けてこなかった可能性も高い。例えば、上司の側が「女性は管理職にならないであろう」「いつやめるかわからない」など無意識のうちに偏見を持ってしまう場合、若手の女性社員が男性社員と同等の成長機会を与えられない可能性がある。
 このように、女性が管理職になるには多くのハードルがあることを理解した上で、解決方法を模索する必要がある。しかし、男性中心だった企業の構造的な問題を放置したまま、「女性管理職が企業の思う通り活躍してくれない」と、「個人の能力」の問題にして片づけてしまってはいないか。

5.ダイバーシティ推進を進める上でのポイント
 とはいうものの、従来の組織体制を一新し、多様な人材を受け入れる体制を完璧に作ってから割合を増やしていくほど日本企業に時間は残されていない。多様な人材の「割合」を増やしつつ「土台」を作っていくしかない。そのうえで重要な観点が経営陣のコミットメントと適切な教育体制の構築であると考える。まずは、企業の経営陣が自社にとってダイバーシティ推進が成長戦略の一環であるということを明確に示した上で、単年度だけではなく中長期的なロードマップを示す必要がある。例えば、直近のコロナにおけるダメージだけにとらわれず、ポスト・コロナ期にどのような成長戦略を描くのか。そしてその時必要な人材は誰なのかを具体的に検討することが重要である。また、戦略を作って終わりではなく、経営陣自らの定点観測と分析に伴う軌道修正を持続的に行う必要がある。企業風土の変革は一朝一石では実現できず大変な労力を要する。経営陣がコミットし、その重要性を発信し続けない限り達成は難しい。
 次に、ロードマップに従った教育体制の構築も重要となる。教育体制構築の上で最も重要な観点の一つが、マイノリティ側だけを集めた研修にせず、全社的な教育制度を構築することである。マイノリティが活躍できるようになるためには、会社全体が変わらなければならない。一般社員から管理職まで、全社員の意識・行動が変革するような教育体制を構築していく必要がある。コロナの影響により、オンライン研修が一般化していく中で、これまでよりも多くの社員の参加を促しやすくなっていくであろう。階層別にとらわれず、管理職と一般社員がフラットに意見を交わせる研修スタイルなど、多様な考え方に触れられるような研修構造が検討できる。
 現在、コロナの影響により、多くの企業に様々な変革が求められている。困難な側面の方が大きいとは思われるが、ダイバーシティの推進に関しては、今取り組むことが追い風となる可能性は十分にある。10年後、20年後に生き残る企業になるために、ダイバーシティ推進を成長戦略として捉え、この機会に取り組んでいくべきではないか。

(出展・引用)
(※1)経済産業省(2018)「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」
(※2)厚生労働省(2019)「平成30年度雇用均等基本調査の結果概要」
(※3)総務省(2016)「平成28年社会生活基本調査-生活時間に関する結果-」

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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