コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

無人自動運転バスのメンテナンスデータプラットフォーム構築の必要性

2020年11月24日 通信メディア・ハイテク戦略グループ 佃一樹


要旨
●無人自動運転バスのメンテナンスにおいて、バス事業者はメンテナンスデータに基づく整備や、AI等のソフトウェアを対象とした新たなメンテナンス専門業者との協業が求められる。
●メンテナンスデータの保管や分析、共有を行う基盤として、地域全体でメンテナンスデータプラットフォームを構築することが公共交通機関ネットワークの強靭化につながるのではないか。


はじめに
 バス運転手の人材不足問題が顕在化しつつある現在において、地域の足として重要な公共交通機関を存続させていくためには、高いレベルでの無人走行実用化が求められる(高度な運転自動化レベルである「レベル4:特定条件下における完全自動運転」の達成に相当)。実用化に向けて、無人自動運転の安全技術の開発や、開発された機器やシステムの運用性などの評価を行う実証実験が活発に行われている。また、安全性確保のため、無人自動運転バスの車両メンテナンスは確実に実施されなければならないが、必要な要素が従来とは大きく異なるため、本格実用化を進めていく際の課題となっている。
 本稿では、無人自動運転バスの実用化に向けて、車両メンテナンスの必要な要素と仕組みづくりについて考えてみたい。

無人自動運転バスの実用化に向けた事例や現状
 無人自動運転バスの安全運行のためには、これまでのバス車両には無かった機器やシステムが搭載されることになる。自車位置推定用のRTK-GPS(※1)や磁気マーカセンサ、障害物検知用のLiDAR(※2)、ミリ波レーダー、高性能カメラなどのハードウェアに加えて、AIや通信システムなどのソフトウェアなどが挙げられ、それぞれ新技術の開発が活発に進められている。
 これまでの実証実験は、日野自動車製の「ポンチョ」のような小型バスを使用した取り組みが中心であったが、最近では、一般的な路線バスとして多く使用されている中型バスや大型バスを公道で自動走行させる取り組みが始まっている(※3、4)。また、特別装置自動車(※5)を自律走行バスとして定常運行させる国内初の取り組みが、HANEDA INNOVATION CITYで2020年9月に開始された。(※6)

バスメンテナンスの現状とこれから
 次に、バスメンテナンスの現状について整理する。バスは人の命を預かるという特性上、道路運送車両法において、営業所ごとの整備管理者の選定および届け出が義務付けられている。多くのバス事業者らは、管理者を自社内で選定、営業所内に整備工場を持ち、自前の整備部門で車両メンテナンスを行っている。法定定期点検整備の実施はもちろんのこと、運転手が感じた車両異変に基づいて整備部門が日常的に点検を行うことや、法定点検整備よりも短い間隔での実施を自主的に設定し点検を行うことが一般的である。
 このような状況の中、無人自動運転バスの実用化を見据えて、国土交通省から旅客自動車運送事業者(バス事業者やタクシー事業者)に対して、「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて安全性・利便性を確保するためのガイドライン」が制定された(※7)。このガイドラインでは各事業者に対して「点検・整備等による車両の安全の確保」を求めており、バス運行が無人自動運転になったとしても、メンテナンス主体は今と変わらずバス事業者となることが想定されている。

無人自動運転バスメンテナンスのために必要な要素と仕組み
 ここからは、無人自動運転バスメンテナンスに必要な要素を考えてみたい。まず、車両の小さな異変に気付き、その異変を整備部門に伝えていた運転手が存在しなくなる代わりに、OBD2(※8)やIoTセンサーなどから車両のデータを取得保管し、これらデータから異常を見つけ出し整備することが求められるようになる。同乗する乗務員も存在しない無人運行状況での整備不良による運行停止は、これまで以上に避けなければならない。AI等を活用したデータ分析による未然の故障予防は非常に重要となる。
 また、無人自動運転に必要なハードウェアの保守や、サイバーセキュリティ確保のためのソフトウェアアップデートが必要となるため、メンテナンス内容がこれまでとは異なり非常に高度になる。これらはバス事業者の整備部門で従来実施されておらず、自社内での対応が困難であるため、無人自動運転バスに必要なメンテナンスを代わりに実施する専門業者の登場が考えられる。バス事業者はメンテナンス専門業者と協業しながら車両を管理する必要があるので、現状行われているような紙べースでのデータ管理ではなく、互いにデータを共有しながらメンテナンスを行う仕組みづくりが求められる。
 メンテナンスデータの保管や分析、共有を行う仕組み作りについて、ノウハウを持ち合わせない地方のバス事業者が単独で行うことは、ただでさえ経営状況が芳しくない事業者の多い現状を踏まえると、相当に厳しいと考えられる。そのため、地域内の複数のバス事業者らとメンテナンス事業者が一体となり、データの保管や分析、共有を行うメンテナンスデータプラットフォームを構築することが有効と考える。各バス事業者がプラットフォームを共同利用することで、蓄積されるデータのハンドリングおよび整備が効率化され、車両メンテナンス工数削減やダウンタイム削減となれば、その地域内での車両管理可能台数や稼働時間が拡大し、多様な運行ルートと時間帯を設定することができる。地域全体でメンテナンスデータプラットフォームを構築することは、より強靭な公共交通機関ネットワーク作りに寄与すると考える。

おわりに
 本稿では、現状のバスメンテナンスを踏まえた上で、無人自動運転バスメンテナンスに必要であろうデータ保管や分析、専門業者との情報共有という面から、地域内の協業によるデータプラットフォーム構築の必要性について述べてきた。無人自動運転バスの本格的な実用化までは時間を要することが想定される。しかしながら、導入前からデータプラットフォームを構築し、有人運転バスの部品故障頻度や交換頻度といった情報をあらかじめビッグデータ化することによって、無人自動運転バス導入直後からメンテナンスの確実性を高めることも可能と考える。

(※1) RTK(Real Time Kinematic)-GPSとは、位置の分かっている「基準局」がGPSから受信したデータを利用して、「移動局」側の高い精度の測位を実現する技術。
(※2) LiDAR(Light Detection and Ranging)とは、レーザー光を対象物に照射して、その散乱や反射光を観測することで、対象物までの距離や方向を測定する技術。
(※3) 経済産業省、国土交通省主導の中型自動運転バス実証実験が2020年7月から開始
(※4) 横浜市で大型バスの自動運転実証試験を実施
(※5) 特別装置自動車とは、通常のハンドル・ブレーキペダルはなく、緊急時には乗員がコントローラーなどの特別な装置で手動操作する自動車である。
(※6) HANEDA INNOVATION CITYプレスリリース
(※7) 国土交通省ウェブページ
(※8) OBD2(On Board Diagnosis second generation)とは、OBDの第2世代の規格。排気ガス制御部品やエンジンなどの主要部品の状態を診断できるシステムである。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ