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AI技術におけるジェンダー平等

2020年11月10日 渡辺珠子


 アップル社のSiri、グーグル社のGoogleアシスタント、アマゾン社のAlexaなど、スマホやスピーカーなどに搭載されているAI(人工知能)の音声アシスタントを使うことは、私たちの日常にかなり浸透してきた。この記事を読む皆さんは、その何気なく使っている音声の性別はどちらに設定しているだろうか。

 昨年UNESCO(ユネスコ:国連教育科学文化機関)は、AI音声アシスタントのデフォルトの声が女性となっていることはジェンダーの偏りを強めると主張する報告書を発表した。上記のAI音声アシスタントの中には設定で男性の音声を選べるものはあるが、初期設定が女性の声になっている場合が多い。UNESCOの報告書ではAI音声アシスタントが「女性は愛想良く従順で、いつでも人を助けて喜ばせたいと思っており、ボタン一つ、あるいは音声で命令するだけで利用できる」という概念を固定させるだけでなく、不当な扱いでも我慢するという偏見を助長させると指摘した。

 報告書は、無意識に女性差別を拡散、定着させるという警鐘を鳴らしたといえる。たかが音声アシスタントで大袈裟な、と思う人は多いだろう。だがAI音声アシスタントを利用することで、潜在意識の中に女性イコール命令しても良い存在という刷り込みが行われ、結果として女性を蔑視する行動を「無自覚」に取ってしまう可能性が問題なのだ。無自覚だから、なおさらたちが悪いとも言える。最近ではAI音声アシスタントに命令する親の声を聞くことで、子どもの意識に女性蔑視がすり込まれることを危惧する声もあがっている。これらはAI技術が普及してきたからこそ出てきた問題提起だ。現在、この問題に対応すべく、LGBTQIA+を推進する団体コペンハーゲン・プライドやNPO法人Equal AIらが中心となって、人々が、女性の声とも男性の声とも曖昧に感じられるジェンダーレスボイス「Q」の開発が進められている。しかし普及までにはまだ時間がかかる見込みだ。

 SDGsは目標5に「ジェンダー平等を実現しよう」を掲げている。SDGsの認知度が上がり、企業活動に浸透するに従って、ジェンダー平等についての理解も広まってきた。日本では管理職への女性の登用をはじめとする女性活躍がジェンダー議論の中心となっており、企業でも様々な取り組みが進められている。それに伴ってビジネスにおいて女性に「女性らしさ」を求めることを回避することも浸透しつつある。AI音声アシスタントの性別に関する一連の指摘は、この取り組みが生身の人間以外にも適用されるようになっていることを示している。IT業界では一部ですでにプログラミング言語におけるジェンダーや人種差別につながり得る用語の代替案の検討が進められているという。企業はこれから自社商品やサービスにおけるジェンダー配慮にも一層目を向けていく必要がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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