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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】「双循環」とは?

2020年11月05日 副理事長 高橋邦夫


10月26日から29日まで、「5中全会」と略称される中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議が北京で開催され、中央委員と候補中央委員の350名余が出席して、来年から始まる「第14次5カ年計画」、および2017年の第19回党大会で決められた今世紀中葉までに実現するとした「社会主義現代化強国」の目標の中間点にあたる2035年までの目標「2035年遠景」(ビジョン2035)を中心に、議論が行われた。
2018年以降続く厳しい米国との対立・摩擦、そして中国自体は「封じ込め」に成功したものの世界的には未だ収束の見通しが立たない新型コロナウイルス感染拡大が世界経済に与えている大きなマイナスの影響という「百年来未曾有の大変局」に直面する中、中国が今回の「5中全会」でも議論した「第14次5カ年計画」の重要な概念である「双循環」について、読み解いてみたい。

1.「双循環」概念の登場とその後の広がり

中国情勢を日々追っている専門家以外の方々にとっては、「双循環」と聞いても恐らく余りピンと来ないのではないだろうか。筆者自身、この概念が初めて登場した今年5月14日の党中央政治局常務委員会での議論を報じる翌日15日の『人民日報』の報道を読んだ際には、これが今日のような重要な意味を持つとは思わなかった(注)。「国内の大循環を主体として形成し、国内・国際の双循環が相互促進する新たな発展」との記述から筆者が連想したことは、過去数年、中国がしばしば述べて来ている輸出主導の経済から内需に重きを置く経済への転換を別の言い方で述べたのか、という程度であった。

その後、習近平総書記は、5月23日に開催中の全国政治協商会議の経済界委員との討論会に出席した際に、「生産・分配・流通・消費を貫き、国内の大循環を主体とし、国内・国際の双循環の相互促進の新発展の構成を徐々に形成し、新たな状況下、我が国が国際的な協力と競争に参加する優位性を育成していく」と述べたのを皮切りに、しばしばこの「双循環」に言及するようになってきた。

更に「双循環」は、2つの意味で「広がり」を見せることになる。第1は、習近平総書記(国家主席)自身が、国内の会議だけでなく、海外の要人との会談などでも「双循環」について言及し、時にはそれを進める中国との協力を呼び掛けるようになったことである。具体的には、9月14日のEU首脳や現在EU議長国であるドイツのメルケル首相との間でテレビ会議方式で行われた中国・EU首脳会談、また9月22日に行われた今年の国連総会でのビデオメッセージによる一般討論演説、更には、9月25日に行われた日本の菅義偉新首相との電話会談などでそれが確認できる。ここでは、菅首相との電話会談での習近平国家主席の発言を御紹介する。

「中日双方は、相互に支持して、ウィンウィンを実現することが出来る。中日経済貿易協力は、コロナ感染の下でも、逆に増大し、強靱性と巨大な潜在力を示した。中国は現在、国内の大循環を主体として、国内・国際の双循環で新たな発展を促進する態勢作りを緊急に進めている。双方が一緒に、安定的で円滑な産業チェーン・サプライチェーンと公平で開放的な貿易・投資環境を守り、協力の質と水準を向上させることを希望する」

もう一つの「広がり」は、習近平総書記以外の中国の要人も、「双循環」に言及を始めたことである。例えば、李克強首相は、世界経済フォーラム(注:「ダボス会議」を毎年主催)が開催した「グローバル・ビジネス・リーダーとの特別ビジュアル対話」に9月15日晩に出席した際に、参加した各国の経済人に対して「中国経済は既に深く世界と融合しており、中国の発展は世界と離れることが出来ず、世界の発展も中国を必要している。外部環境がどのように変化しようが、中国は改革の深化、開放の拡大を断固行っていく」として、「双循環」を紹介したのち、続けて「国内市場の潜在力を十分に掘り起こし、また更に大きな力で外資を吸引し、外国貿易を発展させ、更に高いレベルの対外開放を実現する」と述べている。
同様に、例えば、楊潔篪政治局委員(党中央外事工作委員会弁公室主任)も、9月に行ったミャンマー・スペイン・ギリシャ訪問終了後に『新華社』が行った書面インタビューで、「双循環」について触れている。特に、党・政府で対外関係を所掌する部門のトップである楊潔篪政治局委員らしく、「国内の大循環を主体とするということは、決して門を閉ざしていくことでも、外国貿易・外国資本を削減することでもなく、内需の潜在力を更に発揮させることを通じて、国内・国際の両方の市場、両方の資源を更に上手く利用し、国内市場と国際市場を更に上手く結びつけ、更に強靭で持続可能な高い質の発展を実現するということである」と説明している。

2.「5中全会」での議論から見えてくる「双循環」構築の理由

では、何故この時点で、中国は「双循環」という新しい概念を持ち出して、経済の発展を図ろうとしているのであろうか。筆者は、その理由には米国との経済・貿易摩擦が深く関係しているものと見ている。即ち、2018年に始まった米国との経済面・貿易面での対立・摩擦の発端は、米国の貿易赤字の約7割を占めると言われる対中貿易赤字をトランプ政権が問題視したことであり、中国政府が国有企業などに補助金を出して低価格を実現していることが元凶であるとして、中国製品への制裁関税を課し始めた。その後、この対立は、貿易赤字の問題にとどまらず、ファーウェイ(華為技術)に代表される中国のハイテク企業への米国製部品の輸出規制や米国におけるファーウェイ製品の使用禁止などハイテク分野へも広がってきた。更に、今年に入ってからは、大統領選挙への対応、即ち対中強硬姿勢を見せることにより有権者の支持を得よう、という戦術的色彩も加わって、米国で研究・勉強に従事する中国人技術者・留学生が米国の知的財産権を盗んでいる可能性があるとして彼らの入国制限や締め出しを行い、また動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が米国の個人情報を中国に流す恐れがあるとして、米国企業によるTikTok買収を行おうとしている。

こうした米中の対立を念頭に、今回の「5中全会」の「公報」、あるいは「5中全会」後に公表され、「5中全会」での議論のたたき台になったとも考えられる今年4月11日の「中央財経委員会第7回会議」における習近平総書記の演説を読むと、中国が「双循環」に示される考えの下、これからの5年間、更には2035年までに何を行おうとしているかが伺える。

具体的には、「5中全会」では、「2035年までに社会主義現代化のビジョン目標を基本的に実現する」として、「我が国の経済力、科学技術力、総合的国力を大幅に飛躍させ、経済の総量と都市・農村の住民の収入を新たな大台に乗せ、また鍵となる核心的技術での重大な突破を実現し、イノベーション型国家の前列に進む」ことが提起された。
こうした「5中全会」で提起された内容をより明確に説明しているのが、4月11日の習近平総書記の演説である。この演説の中で、習近平総書記が率直に語っている該当部分を少々長くなるが、以下の通り訳出して御紹介する。

「全国で工場・産業が(新型コロナウイルス感染拡大の影響から)復旧する際、我々は簡単に過去のやり方を繰り返すべきでなく、またそうすることは不可能である。新たな産業チェーンを作る努力をすべきであり、全面的に科学技術のイノベーションを強化して輸入と交代させる、これが供給サイドの構造改革を深化させる重点であり、また高い質の発展を実現するための鍵でもある。その際、第1に、長所を伸ばし、優位性のある産業の国際的な指導的地位を固め、いくつかの「奥の手」となる技術を作り出し、高速鉄道、電力装備、新エネルギー、通信設備などの分野でのすべての産業チェーンの優位性を引き続き増強し、産業の質を向上させ、国際産業チェーンの我が国に対する依存関係を引き寄せ、外部の人間が供給を断つことに対する強くて有力な反撃・威嚇能力を形成する必要がある。第2に、短所を補い、国家の安全に関係する分野などでは、自らがコントロールでき、安全が信頼できる国内の生産・供給体系を構築し、鍵となる時には自己循環を作ることができ、極端な状況下でも経済が正常に回転することを確保する必要がある」

これをかみ砕いて言えば、ファーウェイのように、米国からの部品供給を制限され困難に遭遇している教訓を踏まえ、今後は自前の技術を開発して、どのような状況でも経済が回るような体制を作っていきたい、更にあわよくば、中国で開発した技術が他の国にとっても欠くことができない状況を作り出し、中国が逆に優位に立つことを狙ったもの、ということが出来よう。

3.「双循環」構築の見通し

それでは、中国の思惑通り、「双循環」の構築はスムーズに進むのであろうか。この点については、中国自身、それが容易ではないことを理解していると思われる。それは、同じ「5中全会」の「公報」の中で、「イノベーション型国家の前列に進む」ことを具体的に「新型の工業化、情報化、都市化、農業現代化を基本的に実現する」などと説明する際に、併せて「文化強国、教育強国、人材強国などを構築しなければならない」としていることから伺える。また、偶然時期が近かったものかもしれないが、中国で10月30日に世界各国のノーベル賞受賞者61名を招いて「第3回世界トップ科学者フォーラム」を開催したことからも、中国のハイテク分野を含む科学技術振興にかける意気込みが伺える(新型コロナの影響で、今回はテレビ会議方式での開催)。

一方、「国内の大循環」を実現するためには、5月23日に習近平総書記が全国政治協商会議の経済界委員に語った言葉を借りれば、「生産・分配・流通・消費」の各分野で国内経済の役割を拡大する必要があるが、この半年の習近平総書記の地方視察の際の発言や党・政府の政策を見ていくと、その課題に対しても目配りをしていることがわかる。具体的には、今年5月に党・政府が連名で「新時代における西部大開発の発展促進に向けた新たなパターン形成に関する指導意見」を発表し、習近平総書記が7月に東北地方(旧満州)の吉林省を視察した際には、東北振興の戦略的実施の深化を指示し、10月に広東省を視察した習近平総書記は、広州・香港・マカオを一体として開発・発展させることを目的とする「大湾区」の建設推進を改めて指示している。更に、10月には、党中央政治局会議が内陸部の重要都市である成都と重慶の開発・発展を図る「成渝地区双城経済圏建設規劃綱要」(注:「渝」とは重慶の古名)を発表している。
但し、これらの指示・計画の中には、これまでも何度か提唱され、必ずしも当初の目論見通りには進展していない東北振興や西部大開発といった構想も含まれており、「国内の大循環」を実現するための地方経済の振興が計画通りに進むかは、引き続き注視していく必要があろう。…

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【中国情勢月報】「双循環」とは?(PDF:680KB)
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