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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.79

重要性を増すグリーン・ファイナンスの現状と課題ーアジアに関する考察を中心に

2020年11月10日 清水聡


世界の温室効果ガス(GHG)排出量は、エネルギー使用量の伸びなどを背景に増加し続けている。パリ協定で設定された気温上昇の目標を達成するためには、現在の各国の排出量削減の努力では全く不十分である。気候変動がもたらすリスクは大きく物理的リスクと移行リスクに分けられるが、どちらのリスクも非常に大きなものといえる。GHG排出量を減らすためには、エネルギー分野、運輸分野、エネルギー集約的な産業(鉄鋼、セメントなど)において、脱炭素を推進するこ
とが必要である。新型コロナウイルス感染症の拡大は多様な形で気候変動対策への取り組みを難しくしているが、これを継続していくことは非常に重要である。

気候変動問題の重要性が増すなか、環境関連案件への資金供給を意味するグリーン・ファイナンスの重要性も高まっている。グリーン・ファイナンスを拡大させるためには、気候変動問題への取り組みを本格的に行う機運や枠組みが社会全体に確立することが前提になる。また、ESG投資(環境・社会・ガバナンス要因を考慮した投資)を促進する動きも、グリーン・ファイナンスを拡大させる重要な要因になると考えられる。

ASEAN諸国に関する分析例をみると、グリーン・ファイナンスの供給は需要に対して大幅に不足している。グリーン・ファイナンスに関して先行しているのは主に欧州であり、アジアは相対的に遅れている。その拡大に向けては、新興国において金融改革のロードマップや政府の行動計画を作成する動きがみられるほか、国際的な規制の構築などに向けたイニシアティブが数多く展開されている。また、市場の動きとしては、世界的なグリーンボンド発行額の増加などがみられる。加えて、グリーン・ファイナンスに関連する動きとしてESG投資が世界的に発展してきているが、アジアにおける取り組みは遅れ気味である。

中国・シンガポール・インドネシアの事例をみると、グリーン・ファイナンスに対する本格的な取り組みがみられるようになったのは最近であり、各国において一定の拡大がみられるものの、未成熟な部分も多く残されている。今後、各国はそれぞれの課題の克服に努め、グリーン・ファイナンスを拡大させるとともに、GHG排出量の削減を実現していくことが求められる。

日本においても、特に2015年以降、グリーン・ファイナンスやESG投資に対する関係各機関の取り組みが本格化しており、金融機関や企業の対応も次第に活発化している。今後は、現在の流れを維持し、国内のグリーン・ファイナンスの枠組みを一段と強化することが重要である。同時に、諸ルールの形成に向けた国際的な議論に積極的に参加し、国際標準の構築において役割を果たすことが求められる。これらの努力により、パリ協定の目標の達成に向けた議論を盛り上げていくことが望ましい。
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