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日本の不動産投資信託におけるESG情報開示の動向

2020年10月13日 長谷直子


 日本の不動産投資信託(J-REIT)におけるESG情報開示の進展が目覚ましい。2020年9月時点の調べでは、J-REITの8割以上がESGやサステナビリティに関して何らかの方針を開示している。2018年時点での開示割合は約5割だったことから、この2年で3割以上増加したことになる。最近では、ESGに対する方針・取り組み・実績について定期的に報告することを目的として「ESGレポート」を発行する不動産投資法人も現れ始めた。GRESB(不動産セクター・ファンド単位でESGへの配慮状況を測るベンチマーク)の評価取得参加数も年々増加し、直近では8割近くのJ-REITが評価を取得している。

 不動産投資業界において、なぜこれほど急速にESGの情報開示が進んでいるのだろうか。J-REITの資産運用会社の方に話を伺うと、海外の投資家からESG情報開示の強い要請を受けているという。海外では従来から、株式投資でESGが中長期的な企業価値を測るものさしとして使われてきた。昨今、J-REITの売買の中心は海外投資家となっており、そのシェアは年々増加している。J-REITにおいてESG情報開示が進んだ主な要因は、ESGへの関心が高い海外投資家が増加したことに伴い、ESG情報開示への要請が増えたことだろう。また、そもそも不動産投資は中長期的な運用がベースとなっているため、中長期的な資産価値向上が期待できるESGとの親和性が高いという見方が有力で、不動産投資市場で一気に広がったのではないかと考える。

 実際の取り組みとしても、保有不動産でグリーンリース契約を導入する事例が増えている。グリーンリース契約により、保有不動産においてLED照明など省エネ設備への切り替えを進めることで、建築物の運用時のエネルギー消費量削減に貢献するという環境面の好影響が生まれると同時に、資産運用会社はグリーンリース料もしくは追加賃料が得られる。さらに、テナントが電気料金の削減により満足度が上がることで長期間の入居につながれば、不動産運用におけるキャッシュフローへの好影響も期待できる。入居するテナント側にとっても、毎月支払う電気料金の削減につながるため、双方にとって財務的メリットにつながるサステナビリティの取り組みの好事例が成立する。米国の不動産運用会社Bentall Kennedyでは、サステナビリティに向けた取り組みは、より高い賃料収入や資産価値の源泉になると謳っている。同社は、米国でLEED認証(建築物の環境性能を評価する認証制度)を取得しているビルは、取得していないビルと比べて賃料が3.7%高い、入居率は4.0%高いという分析結果を公表し、サステナビリティに向けた取り組みを投資家にアピールしている。

 今後のJ-REITにおけるESG情報開示では、投資家からの要請に基づく受動的な開示にとどまってはいけない。一部のJ-REITでは、重点的に取り組むべきESG側面の課題(マテリアリティ)を特定したうえで、その課題に対して定量的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、具体的な成果をコミットし始めている。こうした動きからも、不動産運用における中長期的な資産価値向上に向けた取り組みとして、サステナビリティの取り組みを投資家に対して積極的にアピールしようとする姿勢がうかがえる。不動産投資家は中長期的な運用成績の安定性を求めるために、個々の保有不動産のサステナビリティの取り組みが保有不動産の収益性にどのようなインパクトを与えるのか、ということに関心を持つはずだ。今後、J-REITのESG情報開示では、「サステナビリティの取り組みから、投資家がどのようなメリットを得ることができるのか」を説明することがますます求められるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。 
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