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デジタル社会の未来構想 〜具体的なビジョン、価値共創のきっかけに〜

2020年04月01日 田中靖記


デジタルガバナンス・コードが促す企業変革
 今年3月現在、経済産業省において、「Society5.0時代のデジタルガバナンス検討会」が開催されている。これは近年、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性が認識されつつある一方で、デジタル/IT投資を業務効率化やコスト削減の文脈でとらえている企業がいまだに多く存在しているという問題意識に立脚したものである。
 技術進展をはじめ、変化のスピードが速く不確実性が高まっている現代社会において、デジタルを経営戦略そのものとしてとらえトランスフォーメーション(変革)を進める企業と、そうでない企業の差は、一層広がる可能性がある。また、概念実証(PoC: Proof of Concept)を繰り返すものの成果を得られず、変革自体に疲弊してしまう企業も散見される。
 この状況を打破するため、経産省は、デジタルガバナンス・コード(DGC)を制定し、企業のさらなる変革を促すことを計画している。DGCの柱となる考え方は、「企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである」というものとなっている。この考え方に基づき、GDC(案)の「原則」の1つ目には、「成長に向けたビジョンの構築と共有」が置かれている。

問題提起としてのデジタルビジョン提示
 DXの文脈で提示すべきビジョン(デジタルビジョン)は、「デジタルテクノロジーを活用して実現したい社会の姿」と定義できる。このビジョンを定義することによって、3つの効果が期待できる。
 1つ目は、対話・共創のきっかけとなることである。未来の姿を誰も正確に予測することはできないが、発信することで、対話・議論を呼び起こし、ステークホルダーの理解や共感を得たり、協力・協業する人や組織を集めたりすることができるようになる。
 2つ目に、新しい価値の発想・創出につながることが挙げられる。描かれた社会を実現させる方策を考える過程において、これまで連携してこなかった部門同士の協働が必要になったり、自社の経営資源だけでは解決できない場面が現れたりするだろう。このような新たな社内外の新たな結び付きを誘発することで、新たな価値の発想が生まれ得る。
 3つ目に、意思決定の判断材料となる効果がある。デジタル技術の進展は早い。限られた予算の中で、どの技術を採用するか、素早い意思決定を迫られる。明確なビジョンが存在する場合には、世の中の流行に右往左往することなく、ビジョンの実現に必要な技術を選択できるようになる。

デジタル社会の未来を構想しよう
 これらの効果を得るためには、デジタルビジョンとして、できる限り具体的な未来の社会の姿を構想する必要がある。共感と具体性は表裏一体である。ただし、「データを活用して新たな価値を創出し、人々の生活を向上させる」という程度の抽象的なものであれば、何の意味も持たないし、共感を呼ばない。より具体的なビジョン提示が必要となる。
 デジタルビジョンの具体的な例として、日本総研では、「デジタル社会の未来シナリオ」として、20の未来の社会の姿を描き、公開している。例えば、「Swipe: 不都合・不必要を瞬断する社会」では、「自分の嗜好を学習した人工知能が普及し、自分の好まない事象を受け入れるかどうかを、人が知覚するよりも前に自律的に判断し、即座にシャットアウト(スワイプ)できるようになる」という社会を描いた。これ以外にも、「Skip & Warp: 人生の筋道を自由に組み替えられる社会」「Self-Due diligence: 不作為による争いが起きなくなる社会」「Loners’ Cooperation: 孤立者同士による意図しない共助社会」などがある。
 上記のようなデジタルビジョンをベースとして活用すれば、未来に向けたステークホルダーとの創造的な対話の加速、自社らしさを発揮したビジネスの共創・仲間づくりが期待できる。デジタル技術により急速な変化にさらされる経営環境のなかでは、デジタルビジョンの構築と発信は、新たな価値創造を実現するために、欠かせない手法となると考える。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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