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“介護”の新しい形 〜介護サービスにおける就労・社会参加〜

2020年02月01日 紀伊信之


迫る2025年問題
 団塊の世代が後期高齢者になる「2025年」が目前に迫ってきた。このことは二つの意味で重要な変化をもたらす。
 一つは介護人材の不足である。2025年以降介護需要の拡大が予測されるが、人口減少下で人材不足は一層進む。厚生労働省は2025年段階で37.7万人分の介護人材が不足すると試算する。特に訪問介護の人材不足は深刻で、現時点でも有効求人倍率が13.1倍に達している。
 もう一つは、利用者が介護の求める質の変化である。特に「社会参加の支援」という面では、女性の社会参加が進み、就業率が戦前世代と比べて大幅に高い団塊世代が求めるサービスは、従来とは大きく異なると考えられる。

介護サービスでの就労・社会参加
 こうした変化を先取りして、「食事・排泄・入浴の三大介助とレクリエーション」という従来の「介護」のイメージを覆す事業者が徐々に出てきている。特に注目すべきは、介護サービスにおける就労や社会参加の取り組みだ。
 例えばヤマト運輸では、介護サービスの利用者にカタログやパンフレットなど受領印を必要としない投函サービスを行ってもらう取り組みを2019年から始めている。業務委託契約を結んだ各介護事業所に届いた配達物を、介護サービスを利用する高齢者が介護スタッフと一緒に届ける。ヤマト運輸にとっては新たな配送の担い手確保になり、介護サービスの利用者にとっては、リハビリややりがいにつながる、双方にメリットのある取り組みだ。
 こうした動きを国も後押しする。厚生労働省も2018年7月に、「事業所の職員による見守り、介助等の支援が行われていること」、労働基準法の適用となるような「労働者性がないこと」等を条件に、介護事業所での有償ボランティア活動を行うこと、利用者側が謝礼を受け取ることを認める通知を出した(先述のヤマト運輸での配達を行う高齢者も「有償ボランティア」である)。また、経済産業省は、「健康寿命延伸産業創出支援事業」の一環として「仕事付き高齢者向け住宅」のモデル事業を進めている。
 他にも、漬物・味噌といった調味料やまな板の製造販売、洗車や草取りなどを行う就労の取り組みは、全国の介護事業所で広がりつつある。
 デイサービス以外でも、銀木犀というサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を展開するシルバーウッドは、社会福祉法人福祉楽団とフランチャイズ契約を結び、入居者が働くレストランをサ高住に併設させる形でオープンさせた。ここでは介護スタッフに見守られながら、認知症状のある高齢者が働いており、従来「帰宅願望」の強かった入居者の方もここで働くことで日々落ち着いて暮らせるようになったという。
 就労ではないが、「できること」に着目した介護サービスも出てきている。ユニマットリタイアメント・コミュニティが展開する「なないろクッキングスタジオ」は「料理教室型」のデイサービスだ。料理などの「手続き記憶」は認知症になっても衰えないことが多いとされ、何らかの認知症状を持つ多くの利用者も含め、「食材を切る」「皮をむく」「盛り付ける」など、それぞれが前向きに料理に取り組んでいるそうだ。

介護職のイメージを変える効果も
 とはいえ、「働けること」や「社会参加」を特徴とする介護事業所は、まだ一部の先進事例に留まるのが実態だ。課題は、介護施設・サービス側の「社会参加」のニーズと、社会で求められる「仕事」や「役割」とのマッチングである。今のところ、介護現場側には、各地域で埋もれている「仕事」「役割」を探し出す機能に乏しく、一部の熱心な経営者・スタッフや研究者等によって偶発的にマッチングが成立しているに過ぎない。各地域の自治体など、公的な機関が、地域での仕事・役割を介護事業所に情報提供するようなマッチング機能を果たせるようになれば、介護現場での就労や社会参加はより一層促進されるだろう。
 これらの事例は、「認知症の人」や「要介護高齢者」も一人ひとりの「できること」に着目すれば、社会での役割を十分果たし得ることを示している。こうした新たな形の介護が広がることは、介護職員の確保にも希望となる。「利用者のできることに着目し、その可能性を引き出し、社会参加を支援する」という専門性と創造性豊かな新しい介護職像は、「お世話をする人」という従来の介護職像を変え、介護職の社会的地位向上につながる可能性を秘めていると言えるだろう。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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